ep.1

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「全然じゃん‼︎」と自分の腕と比べた僕の腕を見ながら、舞香はケタケタと笑う。 「私も結構焼けてる方だと思ったんだけどなあ。」「まあ、相手が悪かったね。」と僕は胸を張る。この歳になって、8歳差ある女の子と腕の小麦色加減で勝負するとは思っていなかった。 「結局はさ、最初から会ってた方が良かったんじゃない?」 「まあそうなんだけど、そん時は会う気分じゃなかったんだよね。」 「よく気分屋だね、って言われない?」「いや全く。」 舞香からの電話は、ドライブが終わったから会えないかな、という内容であった。断る理由もなく、そこから約30分後に舞香を迎えに行き、近くの道の駅の駐車場にて駐車し、今に至る。 舞香は身長が高く、ずっとマスクをしている。世界がとある感染症のパンデミックで揺れていたご時世だったが、ワクチンの普及や感染症予防対策の浸透により、マスク着用の義務感は薄れつつある時期だった。だからというわけではないが、まだマスクをしてるんだな、という印象であった。 「なんかうちのリハビリの先生に似てるね。」舞香は髪をかき上げながら、言う。 「リハビリ?どこか悪いの?」「そうじゃない、仕事場のリハビリの先生のことよ。」 「さぞイケメンなんやね、その先生は。」「ううん、女を取っ替え引っ替えしているヤリチン野郎なんやけどもね。」舞香は自分の持ってたスマホに目を向け、インスタにいいねをしながら言う。 「その先生が言うには、人間は相性が全てだって。だから俺はまずセックスをして、自分と相性がいい人と付き合いたいんだ、って。」 「合理的にも聞こえるけど。舞香は誘われなかったの?」誘われたけど、と言いながら舞香は僕と右手を合わせようとする。舞香の手は女の子の中でも大きい方なんじゃないかな。僕とそんな大差ない指の長さだった。舞香は左手で右手の指の関節を伸ばすような仕草をしたら、関節が鳴る音がした。 「私、結構指とか首とか、関節をポキポキしちゃうんだよね。だから指が大きくなっちゃうのよね。」「22歳の女の子らしからぬ仕草だね。」 「私より指が柔らかい人なんていないからね。」舞香は僕の手と合わせながら、指の第二関節を反対方向へ曲げピクピクとさせる。うお、と声が漏れる。人の指が波打つように僕の指に振動が伝わる。 「誘われたけど、さっき言ったでしょ?私そーゆーことが嫌いなの。」
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