第10.5話 そのときは存分に僕を罵っておくれ

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できれば僕も両親に気づかれることなく、もう二度と彼らが口出しできない環境を作ってしまいたい。 そして夏音との幸せを掴むのだ。 そのための時間が欲しかった。 「じゃあ、交渉成立ね」 こうして僕と彼女は共犯関係になった。 携帯は母に取り上げられ、常に母の監視の目があったが、夏音との連絡手段がなかったわけではない。 しかし、しなかったのは計画の漏洩を恐れたのと、声を聞いただけですぐにでも彼女のもとへ帰りたくなるからだ。 今は優しさは必要ない、非情に徹しなければ。 ……それでも。 もう一度、夏音が去っていった方向を振り返る。 いくら事情があったからといって、夏音はこんな僕を許してくれるだろうか。 ううん、許してくれなくてもいい、彼女が幸せでありさえすれば。 早く全部片付けて君のもとへ帰るよ。 だからそのときは存分に、僕を罵っておくれ。
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