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ただ単に、面白がっているのかと思っていた。
「びっくりするくらい、なーんもない。
なに、あの人、スカイエンドにも夏音ちゃんにも、なーんの未練もないってわけ?」
小さく檜垣さんが肩を竦める。
そんなはず、ない。
わかっているけれど、つらくなって俯いていた。
「……ごめん、夏音ちゃん」
「えっ、あっ、大丈夫、です」
すまなそうに檜垣さんに詫びられ、慌てて笑ってその場を取り繕う。
「そうだぞ、あの会社は有史が自分の理想を実現するために苦労し立ち上げ、ここまで育て上げたんだ。
未練がないなんてあるはずがない」
末石専務は渋い顔でジョッキ残ってきたビールを飲み干した。
「わかってる。
俺だって近くで見てきたからな。
でもその会社を、夏音ちゃんを、取り上げられそうになってるんだぞ?
いくらなんか事情があっても、反応なさすぎだろ」
吐き捨てるように言い、ちょうど焼けた肉を檜垣さんが口に入れる。
「それは……」
とうとう末石専務も、俯いて黙ってしまった。
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