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私が一歩足を踏み出し、檜垣さんが場所を空ける。
「私の幸せは、私が決める。
有史さんにだって決めさせない。
私は、有史さんの淋しさを埋めて、ずっと一緒にいるって決めたの。
もう、有史さん以外、私を幸せにできないの……」
捲したてる私を、彼は呆然と見ている。
レンズ越しに目をあわせ、じっと見つめた。
「有史さんは私を、幸せにしてくれないの……?」
黙ったまま、有史さんから返事はない。
眼鏡の向こう、彼の瞳は不安そうに揺れている。
「……僕は」
有史さんの手が伸びてくる。
しかし、私の触れる前に止まった。
「檜垣と結婚したほうが、夏音は幸せになれるってわかってる。
でも、それでも、夏音を離したくないんだ」
「だったら、離さないでください」
手を伸ばして、彼の顔に触れる。
私から彼の唇に自分の唇を重ねた。
「夏音……!」
ようやく、有史さんが私を抱き締めてくれる。
その胸に顔をうずめ、今まで押し込んでいた感情を解放するかのように、泣いた。
と、不意に拍手の音が聞こえてきて顔を上げる。
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