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檜垣さんがひとり、拍手をしていた。
「す、素敵なカップルの誕生に、祝福を!」
どうにかその場を取り繕おうと我に返った司会がさらに声を上げ、つられるように拍手は大きくなっていった。
それが治まり始めると同時に、人々が帰っていく。
「で、いったいなんだったの?」
「さあ?」
釈然としない様子なのは大変申し訳ない。
今日はタダで飲み食いできたと許してください。
「あーあ。
今度こそ、夏音ちゃんを俺のものにできると思ったのになー」
檜垣さんは近くにあったワインボトルを掴み、直接飲んだ。
「というか、婚約者はよかったのかよ?」
檜垣さんが視線を向けた会場の中には、もう私たち以外誰もない。
「いいんだ。
きっと今頃、恋人の元へ行くために飛行場へ向かってるだろうし」
「恋人?」
私も檜垣さんも同時に、同じ単語を発していた。
「偽装婚約だったんだ、僕たち。
僕は会社関係のごたごたを片付けて両親を納得させるため、彼女は恋人と一緒になるため」
「……結局俺らは、天倉さんの手の上で踊らされていたのかよ……」
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