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「夏音と別れる気はないと、知られるわけにはいかなかったんだ。
言っただろ、僕が父の後継者に推している人間は一族外だって。
だからギリギリまで、僕が後を継ぐと思わせておきたかった。
それと」
ぎゅっと有史さんは私を抱き締め、唇を重ねてきた。
「可愛い夏音の顔を見たらふにゃふにゃになっちゃって、すぐにバレちゃうからね」
実に締まらない顔で笑い、また彼が口付けをしてくる。
「はいはい。
そーゆーのは、ふたりになってからやってくんない?
二度目の失恋したばかりの身としては、つれーわ……」
呆れたように檜垣さんに笑われ、羞恥で頬が熱くなった。
やっと、ふたりで家に帰ってくる。
「疲れただろ、先にお風呂に……」
「有史さん!」
「ん?」
抱きついたら、不思議そうに彼は首を傾げた。
「有史さんの匂いがする……」
「汗も掻いているし、臭くないかい?」
その胸に額を擦りつけるようにして、首を横に振る。
ずっと有史さんが着ていたシャツを抱き締めて代わりにしていたが、だんだん薄くなっていく香りが悲しかった。
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