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でも、もう代わりは必要ない。
「……もう、どこにも行かないでください」
「約束する、どこにも行かないよ」
証明するかのように、彼の手が私の頭をぽんぽんする。
「別れるとか言っても絶対、離婚届にサインしませんから」
「うん、知ってる。
何度脅しても夏音は絶対にサインしなかったって」
「私は有史さんを絶対にひとりにしないので、有史さんも私をひとりにしないでください」
「約束する。
もう二度と、夏音をひとりにしたりしないよ」
ぎゅっと私を抱き締める腕に力が入る。
それが、愛おしい。
「でも、私が先に死んだら、早く忘れてください。
お膳なんて供えないで」
「……夏音?」
眼鏡の向こうで目を見開き、有史さんが私を見ている。
それをじっと見上げた。
「深里さんに食事を供え続ける有史さん、最初は尊いと思っていたけど、そうやって有史さんが前に進めないでいるの、つらいと思ったから。
深里さんは知らないけど、私はしないでほしい」
「……わかったよ」
少しして小さくため息をつき、有史さんは笑ってくれた。
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