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風鈴①
少し季節外れの鉄製の風鈴が軽く舌を揺らす。
チリンリリン チリンチリン
「そう、私の中には子宮がないの。」
「そうなんですね。」
「女に見える?」
「はい?」
「子宮はないけれど、田村くん、私は女に見える?」
サラサラと黒い肩までの髪からむせ返る様な花の香りが漂う。
チリンリリン チリンチリン
「女に見える?」
「は、はい。」
そう呪文の様に言葉を並べながら凪橙子は籐の椅子から立ち上がった。
ギシっと軋む音に鉄輪の音色が後に続く。
畳の上を深紅のフットネイルが鮮やかな素足が一歩、二歩と龍彦に向かい、彼の鼓動が徐々に速くなる。キッチンに立ちすくむ龍彦の肩に手を掛けた凪橙子は慣れた手付きでシンクの水栓をキュッと閉めた。ポタポタと落ちていた水滴がピタリと止まった。
チリンリリン チリンチリン
深紅の指先がまるで生き物が蠢くかの様に龍彦の足の親指と人差し指の間を器用になぞり、膝までの黒いタイトスカートから伸びた脚がジーンズのふくらはぎに蔦のように絡みついた。
「田村くん、キスしても良いかしら?」
何度目かの口付けにも関わらず、恥じらうような表情で頷く龍彦の横顔はとても可愛らしく、凪橙子の内壁は久方振りにそれを締め付けたい欲求に駆られた。両手を彼の首に回し爪先立ちした凪橙子は龍彦の少し尖った上唇を焦らすように舌で舐め、彼から求め貪り付くのを待つ。目を閉じた長く茶色いまつ毛がうっすらと開き、次の瞬間、龍彦は凪橙子に誘われるがままに唇を重ね、その口腔に舌を差し込んだ。
んっんっ
どちらからともなく深いため息に似た声が漏れ、それがまた龍彦の欲望に火を付け、指先で白いブラウスの裾を捲り上げ、その手が中に差し込まれた。
「待って、田村くん。」
「え。」
凪橙子は龍彦の動きを制すると、味気のない指先で流れるようなラインの顎を撫でそのまま襟元のボタンを一つ、二つ、三つと外し始めた。目の前に顕になる白い肌、それでいて厚い胸板、程良い大きさの乳首、思わずそれに吸い付くと龍彦は「あ。」と声を上げた。
「・・・・痛かった?」
「いえ、でも、それはあまり好きじゃ・・・ないです。」
「そう、わかったわ。」
「はい。」
「それじゃ、これはどう?」
チリンリリン チリンチリン
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