1.ジェットコースター待機列

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1.ジェットコースター待機列

『しまらくこども遊園は、本日、40年の歴史に幕を下ろします。永きにわたるご来場、誠にありがとうございました』 正面ゲートの方から、アナウンスが繰り返されているのが聞こえる。同じ文章がポスターにも書かれていて、それが選挙ポスターみたいに、ずらりと貼られている。 せめて園内にいる間くらい、その事を忘れさせてくれてもいいのに。だからここは、夢の国にはなれなかったんだ。 「ヘックション!」 隣にいるリッキーがくしゃみをしたので、ポケットティッシュを渡した。 この寒い2月ももうすぐ終わる。この遊園地と一緒に。 「混んでるねぇ。いつもガラガラだったのに」 リッキーは鼻を拭いて、オレの渡したティッシュの残りと、丸めたティッシュを自分のポケットにしまった。 坊主頭をすっぽり隠す毛糸の帽子と、最近買った茶色のフリースは暖かそうだが、今日はいつものマフラーをしていない。また忘れて来たのかも知れない。 「風邪もらわないようにね」 オレはマスクをしたまま言った。リッキーの分のマスクも持って来れば良かったとは、昼に会った時に思った。 「もらったら明日休めるのかなぁ」 リッキーは両手をポケットに入れたまま、鼻をスンスンさせる。 野球部の練習がメンドくさいのだろう。3月中旬まで試合も無いし、こんな田舎の弱小チームでは、やる事もない。強豪校なら放課後も土日もぶっ続けなのだろうけど。 「…………」 優勝とかの目標は無くて、メンドくささはある。 続けている意味が、オレには分からない。内申点や調査票以外に部活なんてやる理由が無い。それすら考慮しない大学に行けば、まったく関係ないのに。 前に並んだ人が1度、振り返った。目が合ってしまったので、会釈をする。マナーのなってない高校生に思われたくない。 「そんなんじゃダメだよ。もうすぐ受験生なんだから」 少し小声で言った。
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