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トレーに出した1000円札を、おばちゃんがレジに入れて、お釣りを渡してくる。
「おばちゃん、今までお世話になりました」
一応、あいさつをした。ものすごく照れくさいが、ここで言うのが大人だと思ったから、あらかじめ心の中で準備しておいた。
紙カップを出していたおばちゃんの手が止まった。
少し間があいて、
「……こちらこそ、ありがとうね」
と言われた。目元と、声が潤んでいる。
それから、おばちゃんは背中を向けた。昔は蛍光オレンジで、今は色あせたジャンパーには、しまらくこども遊園のロゴが入っている。
「はい、じゃあこれ。最後までめいっぱい楽しんでね!」
一瞬で、表情が明るくなって、声もいつものように戻っていた。
受け取ったのはホットココア2つ、だ。
オレは頭を下げてリッキーの方に戻った。あのおばちゃんに会うのも、たぶん、今日が最後だ。
できたてのココアが熱くて、冷たくなっていた手がじわじわ温まる。
薄い紙カップに入っていて、小さなマシュマロが浮いている。冬にリッキーがいつも欲しがるのはこれ。
夏はソフトクリームのミックス。雨が降っていたらチュロスのシナモン。まだお昼を食べていなかったら、ホットドッグ。それ以外ならメロンソーダ。
オレは毎回、リッキーと同じ物。その方が注文が早いし、提供にも時間がかからないと分かったから。
ここの売店だけじゃなく、リッキーの欲しい物や、して欲しい事は、もうだいたい分かる。
リッキーの方が年上なのに頼りない、と言うか、はっきり言って手がかかるから、マーくんの方がお兄ちゃんみたいだねーなんて言われて来た。
それは、たしかにそうだ。
2人っきりにされると、オレがしっかりした方が話が早かったから、自然とこうなっていた。
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