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そのせいなのか、看板には描かれていても、チケットには載っていない。
まあ、可愛くはないが、この2体を見るのも今日が最後だと思うと、寂しい気はする。売店のおばちゃんと同じくらい。
冷めた目で見てしまうオレの隣で、リッキーが叫んだ。
「うわーっ! ラックとシマーだ!」
大ファンみたいだが、どこでどんなキャラクターに会おうと、リッキーはこれくらい嬉しそうなリアクションをする。
中学生になっても、近所の電気屋に来ていた何かのキャラクターのきぐるみから、風船を貰って嬉しそうにしていた。
リッキーは飲みかけのホットココアを置いて、前の方へ走っていってしまった。
「えっ! ちょっ!」
そこまで衝動的な行動に出るとは、予想外だ。
子供ですら近づくのをためらうキャラクターに向かって、嬉しそうにつっ走っていく。意外と、足が速かった。体育の成績は良くないくせに。
「もー……」
一瞬、ついて行こうか迷ったが、両手に熱いドリンクを持って人のあいだを抜けられる気がしないので、座ったまま目で追うしかなかった。
スチャラカチャッチャ、パッパラパ、スチャラカチャッチャ、ドンドンドン。
鼓笛隊が陣形に並んで、ダンサーがキラキラした紙吹雪をまき散らす。
『さーあ、ぼくたちと遊びたいおともだちはいるかなー?』
また、音割れしたセリフが流れる。ラックとシマーは、辺りを見回して、人を探すような動きをした。
これくらいオーバーにしなければ、子供には伝わらない。頭では分かっているが、見ている方が恥ずかしくもなってくる。
中の人の時給は、どれくらいなのだろう。鼓笛隊やダンサーの衣装は、この季節に、寒くはないのだろうか。
子供はラックとシマーを認識してはいるが、なかなか手を挙げはしない。茶色くて大きな、得体の知れない生き物と思っているのかも知れない。
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