3.ヒーローと交流タイム

1/6
前へ
/60ページ
次へ

3.ヒーローと交流タイム

ダンスショーが終わった後は、その場でラックとシマーとの交流タイムがある。 子供たちと保護者が列に並んで、おともだちの印を受け取って、きぐるみと握手をしたり、写真を撮ったりし始めた。 リッキーも、一緒に出た白いモコモコの男の子の次に、カチューシャと光るおもちゃを受け取った。 しかも、次の順番の家族に自分のスマホを渡して、ラック、リッキー、シマーの並びで写真を撮ってもらっている。 一緒に来たオレが保護者として行くべきだが、ここから行っても間に合いそうになかった。 写真を撮った後も、リッキーはオレの所に戻って来ないで、なぜかダンサーの1人1人と握手をし始めた。今日の講演で引退する仲間みたいに。 それを見計らって、ようやくオレも、ぬるくなったホットココアを持って、人のあいだを抜けていく。 ちょうどゴミ箱の前を通りかかったので、その場で一気に自分のぶんを飲み干した。片手を空けておいた方が便利だからだ。 とけたマシュマロと薄いココアが流れ込んでくるのを口に溜める。給食の牛乳を一気飲みする要領で。 底に沈殿していた甘い塊ごと、紙カップを捨てた。 少しずつ飲み下しながら、マスクを引き上げる。 振り返ると、その隙にリッキーは、ダンサーの列に加わって、子供から握手を求められる側になっていた。 それは何でだよ、と思ったし、笑ってしまった。口に含んでいたココアを、鼻から吹きそうになった。 人の流れに乗って、抜けて、後ろから声をかけた。 「お疲れ」 喋るだけで甘い匂いがマスクの中に充満する。 「ああ、うん」 リッキーは目の前に来た子供と握手をしながら、オレをちらっと見て返事をした。忙しそうだ。 「それ、持っとくよ」 リッキーはシマーから貰ったリスの耳つきカチューシャを、頭に着けずに手に持っていた。子供用なので、サイズが合わない。
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加