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3.ヒーローと交流タイム
ダンスショーが終わった後は、その場でラックとシマーとの交流タイムがある。
子供たちと保護者が列に並んで、おともだちの印を受け取って、きぐるみと握手をしたり、写真を撮ったりし始めた。
リッキーも、一緒に出た白いモコモコの男の子の次に、カチューシャと光るおもちゃを受け取った。
しかも、次の順番の家族に自分のスマホを渡して、ラック、リッキー、シマーの並びで写真を撮ってもらっている。
一緒に来たオレが保護者として行くべきだが、ここから行っても間に合いそうになかった。
写真を撮った後も、リッキーはオレの所に戻って来ないで、なぜかダンサーの1人1人と握手をし始めた。今日の講演で引退する仲間みたいに。
それを見計らって、ようやくオレも、ぬるくなったホットココアを持って、人のあいだを抜けていく。
ちょうどゴミ箱の前を通りかかったので、その場で一気に自分のぶんを飲み干した。片手を空けておいた方が便利だからだ。
とけたマシュマロと薄いココアが流れ込んでくるのを口に溜める。給食の牛乳を一気飲みする要領で。
底に沈殿していた甘い塊ごと、紙カップを捨てた。
少しずつ飲み下しながら、マスクを引き上げる。
振り返ると、その隙にリッキーは、ダンサーの列に加わって、子供から握手を求められる側になっていた。
それは何でだよ、と思ったし、笑ってしまった。口に含んでいたココアを、鼻から吹きそうになった。
人の流れに乗って、抜けて、後ろから声をかけた。
「お疲れ」
喋るだけで甘い匂いがマスクの中に充満する。
「ああ、うん」
リッキーは目の前に来た子供と握手をしながら、オレをちらっと見て返事をした。忙しそうだ。
「それ、持っとくよ」
リッキーはシマーから貰ったリスの耳つきカチューシャを、頭に着けずに手に持っていた。子供用なので、サイズが合わない。
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