3.ヒーローと交流タイム

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さっそく片手を空けた意味があった。カチューシャを受け取って、子供たちの気が済むまでリッキーと握手させた。 「在庫ない? すぐ持ってきて」 ふと、女の人の声が聞こえた。 ラックとシマーの方を見ると、きぐるみの後ろで、しましま衣装で白塗りのお姉さんが、インカムで誰かに指示している。 並んでくる子供が、予想以上に多かったのかも知れない。配るためのカチューシャとおもちゃが足りなくなりそうなのが分かった。 こんな風になるとは、運営の想定以上だったらしい。やっぱりリッキーは、伝説になるような英雄だ。 英雄の前に、見覚えのある子供が来た。 青いジャンパーと青い靴の男の子だ。さっき呼んでいた女の人もいる。 あれっ、と声が出そうになった。 女の人の後ろから男の人がついて来ている。その腕には、男の人とよく似た女の子が抱っこされていた。特に、目の形と離れ具合がそっくりだ。 体の大きさも髪の長さも男の子と同じくらいだが、色違いの赤いジャンパーを着て、スカートを穿いているので、女の子だろう。妹かも知れない。 その子は、ヘッドホンのような装具を付けていた。 この状況で、こんな小さい子が音楽を聴いているなんてありえないから、イヤーマフだと分かる。 ニュースで見た事がある。ヘッドホンに似ているが、聴覚過敏の保護のための装置だ。ウサギがそれを付けたイラストのステッカーが貼ってあるし、間違いない。 女の人がリッキーに声をかけてきた。 「すみません、さっきも遊んでもらっちゃって……」 「いえいえ、おれも遊んでもらってるんで!」 明るく返事をするリッキーの脚には、男の子がべったり抱きついている。サルの耳のついたカチューシャを着けて、片手に光るおもちゃを持って、笑顔でリッキーを見上げている。
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