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さっそく片手を空けた意味があった。カチューシャを受け取って、子供たちの気が済むまでリッキーと握手させた。
「在庫ない? すぐ持ってきて」
ふと、女の人の声が聞こえた。
ラックとシマーの方を見ると、きぐるみの後ろで、しましま衣装で白塗りのお姉さんが、インカムで誰かに指示している。
並んでくる子供が、予想以上に多かったのかも知れない。配るためのカチューシャとおもちゃが足りなくなりそうなのが分かった。
こんな風になるとは、運営の想定以上だったらしい。やっぱりリッキーは、伝説になるような英雄だ。
英雄の前に、見覚えのある子供が来た。
青いジャンパーと青い靴の男の子だ。さっき呼んでいた女の人もいる。
あれっ、と声が出そうになった。
女の人の後ろから男の人がついて来ている。その腕には、男の人とよく似た女の子が抱っこされていた。特に、目の形と離れ具合がそっくりだ。
体の大きさも髪の長さも男の子と同じくらいだが、色違いの赤いジャンパーを着て、スカートを穿いているので、女の子だろう。妹かも知れない。
その子は、ヘッドホンのような装具を付けていた。
この状況で、こんな小さい子が音楽を聴いているなんてありえないから、イヤーマフだと分かる。
ニュースで見た事がある。ヘッドホンに似ているが、聴覚過敏の保護のための装置だ。ウサギがそれを付けたイラストのステッカーが貼ってあるし、間違いない。
女の人がリッキーに声をかけてきた。
「すみません、さっきも遊んでもらっちゃって……」
「いえいえ、おれも遊んでもらってるんで!」
明るく返事をするリッキーの脚には、男の子がべったり抱きついている。サルの耳のついたカチューシャを着けて、片手に光るおもちゃを持って、笑顔でリッキーを見上げている。
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