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ウサ耳やネコ耳ならともかく、大して特徴的でもない小さなリス耳や、人間とほぼ同じ位置にある大きなサル耳なんて、需要があるのか。そう思っていたが、実際に子供が付けていると、マヌケでちょっと可愛い。
男の子と目を合わせてから、顔を上げたリッキーも、女の子の存在に気付いたらしい。
「マサ、さっきの、さっきの」
呼んできたので、預かっていたカチューシャを渡した。
リッキーは女の子の顔より少し下に、そのリスの耳つきカチューシャを差し出した。
「お兄ちゃんがラックだから、きみはシマーね。赤いし」
おい、それはまずいんじゃないか。こんなに大きなイヤーマフを付けているから、カチューシャを着けられる所なんかないのに。
オレがそう思った時には、女の子が手を伸ばしてカチューシャをつかんでいた。
女の人がはっと口元に手をあてるのが見えた。
リッキーは女の子に向かって、
「お兄ちゃんだけ持ってるのずるいもんね」
と話し続けている。
女の子は靴を履いていなかった。ダンスをしていた中にもいなかったし、列にも並んでいなかったから、おともだちの印はもらえなかったのだろう。
オレは、女の子がカチューシャを頭に当てて、イヤーマフにひっかかって、泣いてしまうのを想像した。
けど、そんな事はなくて、カチューシャをただ持って、不思議そうにしているだけだ。
「すみません、ありがとうございます」
言ったのは、抱っこしている男の人だった。良かったなぁ、と甘やかすような声で言いながら、覗き込む。女の子はカチューシャを初めて見たように、しげしげと眺めている。
「いいんですいいんです。おれ、頭でっかくてサイズ合わないですし」
リッキーは歯を見せて笑ってから、男の子には変顔をして見せた。上唇の裏に舌を突っ込んで、鼻の下を伸ばした、サルみたいな顔は持ちネタだ。
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