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オレは気の利いたことのひとつも言えずに、その隣に立って、一部始終を見ているしかできなかった。
女の人の目が潤んでいるのを見るのは、今日だけで2回目だった。
最後の子供を見送って、やっとリッキーと話せるようになった。
「英雄だね。オレ絶対できないよ」
知らない間に、友達が有名人になった気分だ。
「別に、やろうと思ったわけじゃないんだけどねぇ」
リッキーは手に持ったおもちゃをイジりながら言った。まだ明るい時間だから、電飾が光っていても、あまり見えない。
「えぇ?」
思わず聞き返した。あんなにノリノリだったクセに。
「ラックとシマーには会いたかったんだけど、前の方で見ようと思っただけなの。でも、横にいた子がね、手あげてたのに、気付いてもらえてなかったから」
だからって、あんな風に一緒に出るだろうか。
赤の他人のために、公衆の面前で恥をかける。リッキーは、怖いもの知らずの男だ。
「尊敬するよ」
学校の勉強は、時間さえかければ誰でもできる。体育も、ダンスも、体の使い方と練習次第だ。
けれど、人から好かれるという能力は、後から身につけようと思ってつくものじゃない。リッキーは、それを持って生まれてきた。
オレはそういうキャラではないので、うらやましいとは思わないけれど、純粋に、人として尊敬できる。
確かにサルっぽさは拭えないのだが、何で女子にモテないのか分からない。
おもちゃをこね回していたリッキーが、何かに気付いてオレを見てきた。
「あれっ! ココアは?」
「あるよ。もうホットじゃないけど」
左手に持っていたのを渡す。半分ほど残って冷たくなって、甘い塊が底に溜まっていそうだ。
「マサのは?」
「飲んだよ、とっくに」
「ええーっ……」
リッキーはなぜか驚いたような、いや、ショックすら受けている。
「リッキーも早く飲んじゃって。動物園エリア行くんでしょ」
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