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チュッという音がはっきり聞こえた。
「あ」
オレの方が先に声を出していた。
「へっ!」
リッキーが真っ赤になるのが見える。
すぐに離れると、女の人はウィンクをして、ダンサーの列に戻って行った。パレードは撤収らしい。
オレたちは2人とも、その場にぼう然と立っていた。
何が起こったのか、しっかり見ていたけれど、理解が追いつかなかった。
「い、行こう……」
とりあえず言葉をしぼり出したが、リッキーはまだ、ぼーっとして頬を押さえている。殴られた人みたいに。
オレが歩き出したのを見て、ようやく、ココアを持ったままトボトボついて来た。
「いい匂いしたぁ……」
リッキーが独り言みたいに言ったのが聞こえた時、なぜかオレは、イラッとした。
もうあの時みたいな、子供じゃない。高校生になった。志望校は全部A判定だった。
なのに、まだ理解できない事が起こった。
何かムカつく。
けど、何にムカついているのか、自分でも分からない。誰かに伝える事もできそうにない。
リッキーが悪いのではないし、別に、うらやましいのでもない。
あれだけ盛り上げたのだから、ごほうびくらい貰ってもいい。いや、貰うべきだ。
オレは面白がって、ハグさせた。その時までは、リッキーに、女の人との思い出ができて良かったくらいに思っていたのに。
女の人の、水色の目が忘れられない。
あのウィンクは、リッキーにしたんじゃない。オレにしたんだ。
どうしてもそんな風に見えてしまって、なぜか、見下されている気がした。
それに対して、オレは、どうしようもなく腹が立っているみたいだった。
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