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4.リスの木立にあるベンチ
動物園エリアを歩いている時も、リッキーと会話ができなかった。
勝手に足が前に出て、ずんずん進んで行ってしまって、
「マサー! おーい、マサルくーん! 待ってよぅ」
大声で呼ばれて立ち止まる。
「…………」
でも、追いついて並ばれても、何と言えばいいか分からないから、また歩き出すしかない。
それを繰り返していた。
サル山もリスの木立もロクに見ていない。どうせ、リスなんかいない。これだけ来ているのに、見た事がないんだから。
ついに、腕をつかまれた。
「何で? 何そんな急いでるの? お腹痛いの?」
リッキーが聞いてくるのに、うまく答えられない。
「違う。時間ないから……」
まったく見当ちがいなことしか言えない。17時閉園だとしても、まだ1時間半はある。
「バス乗る?」
「いい」
「時間ないんじゃないの?」
「そうだけど……歩きでいい」
めずらしくリッキーの方から解決方法を示されても、実際の問題は違うから、受け入れられない。
意味の通らないことを、短く言うしかできない。機嫌の悪い子供だ。
リッキーは突然、何も言わず、ちょうどそばにあったベンチに座った。
木立の真ん中くらいの場所にあって、公園でもどこでもあるような木製の、3人がけベンチ。木立の葉っぱはほとんど落ちているのに、日当たりがあまり良くなくて、少し湿っている感じがする。
オレも進めなくなる。1人で先に行っても無意味だ。
「何してんの?」
マイペースなのはいつもの事なのに、イラッとして言ってしまった。
リッキーは何も気にしていない。
「休憩。ココアもまだ飲みきってないし」
「時間ないって…….」
「いいじゃん。そんな急いで、ぜんぶ回らなくても」
そう言って、ベンチの隣をトントンと叩いた。オレにも座るように言っている。
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