4.リスの木立にあるベンチ

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今日は昼から集まって、アトラクションに乗れるだけ乗って、売店に寄って、動物園エリアと池を見たら、帰るつもりだった。 それだけで、しまらくこども遊園は回り切れてしまう。目をつむってでも歩けるほど知り尽くしたこの場所で、急いでも、得られるものは何もない。特に今日は混雑しているし、思う通りには動けない。 それを、リッキーは分かっているのかも知れない。 仕方なくベンチに座ると、頭が冷えていく感じがした。 「うわー、ちょー甘い」 リッキーが言うのが聞こえる。横を見ると、紙コップに口をつけているのと目が合った。 何だか、リッキーの目を見たのは久しぶりな気がした。 紙コップに残った、沈殿したココアを勧めてくる。 「いる?」 「いらない」 別に欲しくて見ていたワケではないので、首を振って断った。 顔を正面に向けて、ポケットに手を突っ込んだ。カイロもぬるくなって来ている。 前に足を投げ出す。広場にはあんなに人がいたのに、ここにはほとんど通って来ない。 カモの池に行くルートは2つあって、このリスの木立じゃない方には、ふれあいコーナーと大きな鳥のオリがある。 直線距離ではこっちの方が近いが、子供はもう一方を通りたがるはずだ。 ズズッと残っているのを飲み干すのが聞こえた。オレの座った側にゴミ箱があるので、飲み終わったら指差そうと思った。 「今日さ、何でマスクしてんの?」 リッキーから、急に、今さらな事を聞かれた。 「え? 別に……人多いから?」 冬にマスクをしているのは、オレにとって当たり前になっていた。リッキーも、毎年見ているはずだが。 「人混み行くならマスクしなさいって、お母さ──親から言われてて。オレ小さい頃、風邪もらいやすかったでしょ?」
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