4.リスの木立にあるベンチ

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16才にもなってお母さんと呼ぶのはダサいと思っているけど、直せない。しかも、小さい頃に言われたのをいまだに守っているのも恥ずかしいんじゃないかと、気付いた。 でも、どっちも、今になってやめようにも、もう習慣になってしまっている。さっきの広場のような場所ではずしたら、ウィルスが体に入ってくる気がする。 それに、出っ歯なのを隠せるのも、マスクの利点だ。 「あー、そうだった気もする」 リッキーが飲み終わったので、オレは体をずらして、左にあるゴミ箱を指差した。 「おれ、風邪とかひかないんだよね。バカは風邪ひかないから」 「自分で言うんじゃないよ」 そう言ったオレの目の前で、リッキーは手首にスナップをきかせて、紙コップをゴミ箱にシュートした。ここぞという時にバッチリ決めるのはかっこいいが、また鼻をすすったので台無し。 「さっきのティッシュも捨てたら?」 「いいよ。最後まとめて捨てる」 「捨てときなよ、お母さん大変だって」 どうせ、忘れて洗濯に出してしまうのだから。 オレがダメ押ししたので、リッキーは丸めたティッシュも投げて捨てた。やっと姿勢を起こせる。 「さっきの子たち、みんな元気だったねぇ」 リッキーも、オレと同じように足を投げ出して言った。自分が1番元気に踊っていたのに、何を言っているのか。 「男の子来た時うれしかったなぁ」 「ああ、青いジャンパーの子でしょ。確かにリッキー、すごい笑顔だった」 「ジャンパーの色は忘れたけど。おめめはクリクリしてた」 小さい子供の目は、だいたいクリクリしているものだ。リッキーは相変わらず、オレとはまったく別の所を見ている。 ダンサーの女の人の記憶はふり払って、その前の話に持っていく。 「あれ、一緒に来てたのは妹かな。その子は色違いの赤いジャンパー着てたよ」 ジャンパーの形はお揃いで、靴を履いていなかった。男の子は青い靴を履いていたのに。
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