4.リスの木立にあるベンチ

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「あー、ウサちゃんの耳あてしてた? お父さんに抱っこされて……」 「あれお父さんに見えたの?」 オレが驚いて聞くと、リッキーはもっと驚いて聞き返してくる。 「えっ?」 「いや、言い方悪いかな。昔はお父さんだったかも。でも今は違うと思うよ」 「なんで、なんで?」 なんでも何も、という感じだが、一応、説明する。 「距離感変だったじゃん、女の人とも子供とも。指輪はせずに高い時計して、子供2人はペラペラの上着。だいたい、家族で遊園地にお出かけなのに、お母さんがお洒落してないなんてありえる? シングルマザーでしょ」 「え、えぇ、そうだったの……」 リッキーは少し心細そうに自分の両手を握った。 「あと抱っこも話しかけ方も不自然だったし、女の子の顔見るフリして時計気にしすぎ。抱っこ紐してたのはお母さん。女の子は靴履いてなかったでしょ。人混みとか歩かせられないし、履かせても脱いじゃうんじゃない」 あの女の子は、聴覚以外にも過敏か、うとい部分がありそうだった。表情も視線もずっと変わらず、にぎやかで騒がしい周囲に、ほとんど反応していなかった。 だから、リッキーが渡したカチューシャを受け取った時、お母さんは泣きそうになったのだと思う。人にも、おもちゃにも、めったに関心を示さないから。 反応が薄くても、話しかける必要はある。ただし、普段からやっていなければ意味がない。 抱っこしていた男の人は、女の子の視点じゃなく、自分からの視点でしか、リッキーの好意という物事を見られていなかった。女の子と顔はよく似ていたから、余計に残念だ。 「オレたちに良い親アピしても仕方ないのにね。男の子、リッキーの左脚にずっとひっついて、お父さんのこと1回も見なかったでしょ。背中も見せないようにして。恐いんだよ、あの人」 そこまで言ってしまって、ハッと気が付いた。オレが1番恐い。
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