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まあ、実際には、接客の経験なんて関係ない。小学生くらいからオレはこんな感じだ。リッキーが他の人より鈍感だから、何にも気にしないだけで。
「でも、マサってマジシャンみたいだよねぇ。昔から、おれの探し物の場所とかよく当ててたし」
「単にリッキーがどこに入れたか見てただけだよ。マジックでも何でもない」
「ポケットに何でも入れてるし」
「何でもじゃないって。カイロとティッシュとハンカチとスマホ。あと財布だけ」
上着と尻のポケットを叩きながら言った。別に、最低限の物しか持ち歩いていない。
「財布から絆創膏とか針と糸出す男子、マサ以外に見た事ないけど」
「それはリッキーがケガしたりボタンちぎれたりするからでしょ」
「今度は白いハト出してくれる?」
「出せないよ」
「ははーん、やっぱりマジックだから仕掛けがいるのかぁ」
「ちがうってば。もー……」
分かったように言ってくるのが、やっぱりズレていて笑ってしまう。
こんなリッキーに、イライラして当たってしまったのが申し訳なくて、ちょっと反省する。
しまらくが山の上にあると言っても、冬は日が短いから、閉園時間にはもう暗い。話しているうちに、太陽はどんどん下がってきた。
風も出て、寒さが強くなっている。リッキーも脚があたるほどぴったりくっついて来ている。さっきまであいだを空けて座っていたはずだが、無意識らしい。
「道に迷った時にいきなり前から来るのも、イリュージョンだと思ってたよ」
リッキーがその距離で言った。
「リッキーが迷子になりすぎて習得しちゃったんだよ」
「えっ! ほんとに!」
オーバーなくらいのリアクションで、目を輝かせて見てくる。キラキラした視線が痛い。冗談のつもりだったのに、騙したみたいで。
「ミスター・マサックだな!」
「誰だよ、それ」
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