5.カモの池と閉園セレモニー

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5.カモの池と閉園セレモニー

ぜんぶ回らなくてもとリッキーは言ったが、結局、カモの池まで行った。 パレードを見たのも何年かぶりだったし、ここにもしばらく来ていない。 リスの木立からつながる砂利道を、横に並んで歩いた。 暖かい時はレジャーシートに座ってピクニック気分の家族だったり、のんびりしているお年寄りがいたりする場所だ。 でも、真冬の水辺は寒すぎる。深い緑色の池には、カモしか居なかった。正確には、カモとアヒルとスズメ、あと池の中のコイとカメしか。 さっきまで曇り空だったが、晴れてきたのは良かった。夕方っぽく下がってきた太陽と、少し波のある水面。景色はなかなかだ。 砂利道のすぐ横から黄色くなった草の土手になっていて、その先にあるのがカモの池。 池の向こうには山を切り開いたように木が生えている。遊園地のために作った人工池なのか、元々あった湖なのかは知らない。 池の方に向いているリッキーと、同じ体勢になっているのに気が付いた。 2人とも両手をポケットに突っ込んで、肩をすくめている。足を出すタイミングも揃っている。 本人は気付いていない。と言うか、気にしていない。 「まだハクチョウになってないねぇ」 突然、そんなことを言ってきた。 「まだ?」 「あれ。みにくいアヒルの子じゃない?」 あごで指して聞いてきた。 アヒルのヒナも居なければ、ハクチョウも居ない。 「あれカモだよ、カモ。あれで完成形」 「へー! カモかぁ!」 初めて知ったように驚いている。 「無理あるでしょ」 オレが言っても、へへっ、と笑うだけ。どういうリアクションなんだ。 前を向いたリッキーが、今度は道の先に何かを見つける。 「うわっ、なつかしー!」 と言って、走って行ってしまう。 緑色の販売機だ。電気は使っていない、アナログの。
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