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上に黒いテープの直線で『カモノエサ』と読めるように貼ってあるが、ガラス部分の中のオレンジ色の紙には『コイのエサ 1ケース100円』と青い字が印刷してある。
「やっていい?」
オレがうんと答える前に、リッキーは100円玉を入れて、レバーを回していた。
ガコンと音がして、人間の食べる四角いもなかに似たエサが落ちてくる。勢いあまって、取り出し口から外に飛び出してきた。
「半分こね」
拾い上げたリッキーが言った。もなかは箱型になっていて、半分に割ると、コロコロしたドッグフードみたいなエサが入っている。
「いや、オレいいよ。見てる」
ポケットから手を出しもせず断った。
あんまり、鳥は得意じゃない。特にここにいるカモとアヒルには、襲われた事もある。
リッキーと会ったのも、それがきっかけだった。
しまらくに初めて来た時、オレはお母さんと2人だった。お父さんは仕事だったと思う。
その頃のオレにとってはコイやカモすらめずらしかったし、エサをやりたがったらしい。今のリッキーみたいに。
それで、もなかを半分に割って両手で持っていたのだが、転んでしまって、中身をまき散らしてしまった。
大量のカモとアヒルが襲いかかって来た光景は、今でも忘れられない。オレまで食われると思ったくらいなのだから。
鳥のくせに50センチ以上はあって、噛んでくるし、人なつっこく見せかけて凶暴だ。
それを助けてくれたのがリッキーだった。本人は、たまたま鳥の群れがいたから突撃しただけだったらしいが。
少なくとも鳥をよけさせて、倒れて半泣きのオレを起こして、自分の家族のレジャーシートまで連れて行ってくれたのは事実だ。
すぐに、オレのお母さんが迎えに来た。
お母さんはオレと違って社交的なタイプの人なので、リッキーのお母さんとその場で仲良くなって、そこから今の付き合いが始まった。
だからオレは今も、心のどこかで、リッキーのことは恩人だと思っている。
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