5.カモの池と閉園セレモニー

2/8
前へ
/60ページ
次へ
上に黒いテープの直線で『カモノエサ』と読めるように貼ってあるが、ガラス部分の中のオレンジ色の紙には『コイのエサ 1ケース100円』と青い字が印刷してある。 「やっていい?」 オレがうんと答える前に、リッキーは100円玉を入れて、レバーを回していた。 ガコンと音がして、人間の食べる四角いもなかに似たエサが落ちてくる。勢いあまって、取り出し口から外に飛び出してきた。 「半分こね」 拾い上げたリッキーが言った。もなかは箱型になっていて、半分に割ると、コロコロしたドッグフードみたいなエサが入っている。 「いや、オレいいよ。見てる」 ポケットから手を出しもせず断った。 あんまり、鳥は得意じゃない。特にここにいるカモとアヒルには、襲われた事もある。 リッキーと会ったのも、それがきっかけだった。 しまらくに初めて来た時、オレはお母さんと2人だった。お父さんは仕事だったと思う。 その頃のオレにとってはコイやカモすらめずらしかったし、エサをやりたがったらしい。今のリッキーみたいに。 それで、もなかを半分に割って両手で持っていたのだが、転んでしまって、中身をまき散らしてしまった。 大量のカモとアヒルが襲いかかって来た光景は、今でも忘れられない。オレまで食われると思ったくらいなのだから。 鳥のくせに50センチ以上はあって、噛んでくるし、人なつっこく見せかけて凶暴だ。 それを助けてくれたのがリッキーだった。本人は、たまたま鳥の群れがいたから突撃しただけだったらしいが。 少なくとも鳥をよけさせて、倒れて半泣きのオレを起こして、自分の家族のレジャーシートまで連れて行ってくれたのは事実だ。 すぐに、オレのお母さんが迎えに来た。 お母さんはオレと違って社交的なタイプの人なので、リッキーのお母さんとその場で仲良くなって、そこから今の付き合いが始まった。 だからオレは今も、心のどこかで、リッキーのことは恩人だと思っている。
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加