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池の淵まで一緒に降りて行って、しゃがんだ背中に言った。
「初めて会った時、もっとお兄さんに見えたよ」
「ほんとに? 大学生くらい?」
今度は手首だけじゃなく、肩からしならせて、何粒かのエサを遠投している。
「それはさすがに、無理あるけど。6才だし」
水面でバシャバシャッとコイがあばれ、カモが飛びもしないのに羽をばたつかせる。あれに襲われて今でも恐いなんて、他の人の前では言えない。
リッキーは一旦手を止めて、はー、とため息を吐いた。
「何でこんな風になっちゃったのかなぁ」
「オレのセリフ」
まさかあの時助けてくれたお兄さんが、カモをハクチョウのヒナだと言い出すなんて、当時のオレが知ったら、がっかりするに違いない。
「もっとかっこいいお兄さんでいたかった」
お兄さんは青春ドラマで川に向かって小石を投げるように、コイのエサを池に投げる。風を切って、ヒュッと音がした。
「リッキーはかっこいいでしょ」
オレは景色を見ながら訂正した。
単なるバカなだけじゃなく、かっこいい所もたくさんある。
ずっと風上や、池に近い方を歩いてくれる所とか。人が避けたがるような物事を、気にもしない所とか。
「えへへぇ、ほんと?」
ニヤニヤして振り返った顔は、そんなにでもないが。
「…………」
少なくともオレの見てきた中で、1番バカで、1番かっこいい男だ。
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