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「そう言えばこれ、払い戻しできるのかな?」
ふと思って言ったら、リッキーが大きい声を出してきた。
「えー! 記念に取っておこうよぅ」
「えぇ……もー……」
そう言われたら、オレもそうしなければいけない気がする。
そうして貯まったリッキーとの思い出や記念は、すでに部屋に山ほどある。また1つ、増えてしまう。
確かに、忘れ物もなくし物も多いリッキーだが、このパスだけは、1度もなくした事がない。くしゃくしゃにはしても。
しまらくの年パスは、毎年4月にお父さんが買って来てくれる。会社の割引が使えると言っていた。定価で買っても、年に2回来れば、もう元が取れる値段ではあるが。
小学生の頃は家族と一緒に、中学生になってからは自分たちだけで、最低でも月に1回。多い時は週に1回くらいのペースで来ている。
週末より、平日の、部活のない日が多かった。17時閉園なので長くはいられなくても、アトラクションに1つか2つ乗って、売店のベンチで軽く飲み食いして帰る。
もう、入場ゲートのお姉さんや、売店のおばちゃんや、アトラクションの運転士のおじさんとも知り合いだ。あの人たちがこれからどうして行くのかは、聞けないけれど。
リッキーはパスを顔より高く掲げて、写真と実際の景色を比べるようにした。
その瞬間、曇り空がぱっかり割れて、少しだけ日が差してきた。
タイミングが良くて笑ってしまう。海を割ったモーゼみたいに、リッキーが天気を操ったみたいだった。
「なんか、ここがなくなったら思い出まで消えちゃう気がしない? だからせめて物で残しておきたいなぁ」
本人はそんな事なんか気にもせず、ちょっと悲しそうに言ったから、オレは何も言えなかった。
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