月夜の散歩道で

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 興奮した口調で一気に捲し立てると、池田は電話を切り、男の右手にしっかりとスマホを握らせた。  助手席のドアが潰れて開かないので、仕方なく指を鳴らして、運転席の窓から外へ出る。地面に降り立つと、また人間の形状を保ち、そこでウン、と伸びをした。  パーカーのポケットに手を突っ込み、家を出る間際に入れておいた便箋を広げる。  “今夜の指令”と題して、池田が取る行動が事細かく書かれている。銀行強盗に入った男を自首させる内容だ。勿論、日本語などではない、異国文字だ。  池田のような宇宙人と呼ばれる種族は、基本的に新月以外なら異能を駆使することができる。なので、大体満月が近づくと今夜みたいな指令がやってくる。男に事故を起こさせたも、池田の仕業だ。  手紙に目を落とし、最後に書かれた一文を読み取った。  “そこから速やかに撤退せよ。自力で帰れ”。池田は再三ため息をついた。  なんて雑な扱いなんだと思うが、仕方がない。後日、報酬が出るからよしとしよう。  そう諦め、池田は破損したミニバンに背を向けた。帰路を辿るべく静かに歩き出した。  〈了〉
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