月夜の散歩道で

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「暇なの?」 「いえ、散歩中ですから。でも明日にはまた暇になります」  池田の受け答えに男は首を捻る。 「つまり、散歩してんだったら暇なんだよな?」 「そうですね。そうなりますか……」 「暇してんなら、この鞄運ぶの手伝ってくんないかな?」 「良いですよ。どこまで運ぶんですか?」 「……すぐそばに車停めてっから」  半ば押し付ける形で男からボストンバッグを渡された。両手で抱えたそれはズシリと重い。  男に付いて行き、黒のミニバンまで案内された。男がひったくるように池田から鞄をもらい、車に積んだ。 「ここから二時間ほど走らせた第一埠頭まで行きたいんだよ。ちなみに荷物はこの鞄だけじゃない。まぁ、乗れや?」  池田は助手席の扉に手を掛け、座席に乗り込んだ。しっかりとシートベルトを装着する。男が運転席に座り、そのままエンジンをかけた。 「シートベルトをしないと危ないですよ」と声を掛けると、男は不機嫌そうに息を吐き出した。カチリとベルトを留める音が鳴る。  ミニバンを走らせると、男はチ、と舌打ちをつき、「何だってこんなことに」とぼやいた。始終苛立っている。
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