月夜の散歩道で

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 テレビを見ながらのんびり過ごしていると、不意に背後でカタンと音がした。このところ月が大きく満ちてきたことから、そろそろだとは思っていた。  ワンルームの狭いアパートで、池田と表札を出した若い男は、面倒くさそうに嘆息して立ち上がる。ドアポストに投函された手紙を取り出し、白い便箋二枚に綴られた文章に、一通り目を通した。最後の一文まで読んでまたため息を吐いた。  テレビにリモコンを向けて消す。今し方観ていたニュース番組では、この近辺の山道で大きな猪が目撃されたことや、日中に起きた銀行強盗事件で、四人の犯人グループのうち、一人は捕まったことが報道されていた。  四つ折りに畳んだ手紙と財布をパーカーのポケットに仕舞うと、池田は部屋を出た。  やや丸みがかった月を見上げ、歩き出す。頬に当たる風が心地よい。どこからか金木犀の香りがふわりと漂い、殊のほか気分が良くなる。  自宅から三十分ほど歩くと、こじんまりとした公園にたどり着いた。近年の少子化問題の進行で、今はあまり利用されていないのだろう。ブランコのみの遊具は塗装が剥げ、手入れのされていない地面には雑草が生い茂っている。
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