19人が本棚に入れています
本棚に追加
「暇なの?」
「いえ、散歩中ですから。でも明日にはまた暇になります」
池田の受け答えに男は首を捻る。
「つまり、散歩してんだったら暇なんだよな?」
「そうですね。そうなりますか……」
「暇してんなら、この鞄運ぶの手伝ってくんないかな?」
「良いですよ。どこまで運ぶんですか?」
「……すぐそばに車停めてっから」
半ば押し付ける形で男からボストンバッグを渡された。両手で抱えたそれはズシリと重い。
男に付いて行き、黒のミニバンまで案内された。男がひったくるように池田から鞄をもらい、車に積んだ。
「ここから二時間ほど走らせた第一埠頭まで行きたいんだよ。ちなみに荷物はこの鞄だけじゃない。まぁ、乗れや?」
池田は助手席の扉に手を掛け、座席に乗り込んだ。しっかりとシートベルトを装着する。男が運転席に座り、そのままエンジンをかけた。
「シートベルトをしないと危ないですよ」と声を掛けると、男は不機嫌そうに息を吐き出した。カチリとベルトを留める音が鳴る。
ミニバンを走らせると、男はチ、と舌打ちをつき、「何だってこんなことに」とぼやいた。始終苛立っている。
最初のコメントを投稿しよう!