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池田は無言で車窓を眺めた。見慣れた風景が過ぎ去り、どんどん自宅から遠ざかっていく。憂鬱さに自然と眉が下がった。
男がカーナビを操作し、どの道を走るべきか思案するのを、横目に見る。池田は口を開いた。
「ここから2ブロック先で検問をやっているそうですよ? なので、次で右折して脇道に入った方が早いです。山沿いの旧国道を抜けて行けば良いんじゃないですか?」
「お? おお、そうなのか。あんた使えるな?」
「はい。使えますよ」
ミニバンは、池田の指示した交差点で右折し、脇道に入った。鬱蒼とした木々が生い茂り、途端に視界が暗くなる。男がヘッドライトをハイビームに切り替えた。
曲がりくねった山沿いの道をしばらく進んだところで、池田はキョロキョロと目を動かす。そろそろこの辺りだろうか、と考える。
自身の、指紋すら無いつるりとした右手を見つめた。親指と中指を合わせてパチンと指を鳴らした。
すると木々の隙間から、突然大きな猪が現れた。運転席の男はヒッ、と息を飲み込み、慌ててハンドルを左に切った。
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