月夜の散歩道で

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 *  ミニバンは道路沿いに作られたブロック積み擁壁(ようへき)に突っ込んだ。運転席のエアバックが膨らみ、男が気を失っている。  ボンネットが凹んで足は挟まっているように見えた。こめかみ辺りからも出血しているが、命に別状は無さそうだ。  池田はシートベルトを外すと、パチンと指を鳴らした。衝撃の瞬間にもそうしたように、挟まっていた足を抜いた。  男の服のポケットを漁る。思った通り、手はスマホを掴んだ。男の指の指紋からロックを解除して、119番へ発信する。右手で喉を触り、低く咳払いをした。 「あ、あのっ、た、助けてくれよ、車で事故しちまって、け、怪我してるんだよ!」  、あえて男の口真似をする。焦った様子を醸し出す。電話口から場所がどこかを問われるので、「ちょっと待ってくれ」と言ってから、首を動かした。すぐそばに電柱が見える。そこに書かれたカタカナと数字を読み上げた。 「頼むよ、早く着てくれっ。あ、足が挟まってて抜けねぇんだ! 銀行で強盗をしたのは俺なんだっ、自首するから、頼むから、助けてくれよ!」
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