エンジェルに魔法はいらない

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エンジェルに魔法はいらない

「はーい、みんなお待たせー!クインテット・エンジェルの、RENAでーす!今日も配信、はりきってまいりましょー!」  それは私、村上芽以(むらかみめい)がネットアイドルに化ける時間。声を作ることだけは昔から得意だった。アニメ声を作って、マイクの前で一生懸命喋る。しかし、画面に表示されているのは本物の私の声ではない。プロのイラストレーターさんに描いてもらった、クインテット・エンジェルというアイドルグループのキャラクター、RENAのイラストだ。  クインテット・エンジェル。それは、Vチューバ―の女の子五人組グループ。全員それぞれイメージカラーがあり、全員がネット世界に舞い降りた天使という設定である。RENAのイメージは白。天真爛漫でいつも明るい、ちょっと天然ボケな女の子という設定だ。 『待ってましたレナちゃーん!』 『配信ハジマッター!』 『お疲れ様です。いつも楽しみに聞いています』 『今日はホラーゲーム実況やるってほんと?レナちゃん怖いの大丈夫?』 『とりあえず毛布被ってガタガタする準備してきましたぁ!』 『レナちゃんの実況聞きたいからホラゲー苦手だけどがんばるううううううううううううううううううううううう!』 『レナちゃあああああああああああああん!』  配信が始まると同時に、ファンたちのコメントが溢れる。ここまでくるのに本当に長い年月がかかった。次々訪れる生放送の視聴者。ファンたちの応援コメント。時々アンチも混じるが、そもそも最初の頃はコメントどころか“ほとんど誰も見ていない”が当たり前の状況だったのだ。それに比べたら、多少アンチがつくくらいどうってことはない。 ――今日も、頑張らなきゃ。  私は気合を入れ直す。ペットボトルのお茶を飲んで深呼吸。今から自分は、村上芽以ではない。みんなの愛されアイドル、クインテット・エンジェルのRENAだ。みんなの期待を裏切らないように、一生懸命彼女になりきらなければいけない。 『レナさんの実況、一生懸命ゲームの考察してくれて楽しいから好きですねえ。あと、ファンレターへの返信が思い遣りに溢れてるのがいいのです』  目に入ったのは、まだファンが少なかった時から応援してくれている“8号”さんのコメントだ。今日も来てくれている、そう思うと本当に嬉しい。彼なのか彼女なのか、大人なのか子供なのかもわからない相手だけれど、常連が支えてくれることのなんと心強いことか。  ましてや、彼(とりあえずそう呼んでいる)はいつも、自分が特に頑張っているところに気付いて評価してくれるのがたまらなく嬉しい。 「みんな、歓迎ありがとねっ!」  画面の前で、目いっぱい可愛い声を作って叫んだ。 「じゃあ今日も、新しいゲームの実況、いってみよー!」
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