エンジェルに魔法はいらない

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 ***  Vチューバ―を始めて三年。私のネットアイドル業は、順調に進んでいるように思えた。――あのトラブルが発生するまでは。 『【凶報】クインテット・エンジェルの、AYA、うっかり顔出ししてデブスを晒してしまうwwww』 『【悲報】AYA、言い訳だけしてさっさと逃げる。テンプレ謝罪でさっさと退所した模様!』  同じクインテット・エンジェルの仲間の一人であるAYAが、大きなミスをしてしまったのである。  生放送を始める時、うっかりパソコンのカメラを切り替えてしまい、本物の“中の人”の映像がみんなの前に晒されてしまったのだ。私もAYAとはメールでやり取りしていたものの、当然彼女と実際に会ったことはなかったし、その素性も知らなかった。とても大人びた綺麗な声の女性だったので、なんとなくキャラクター通りの“セクシーなお姉さん”を想像していたが、それだけである。  流れてしまった実際の“中の人”は、AYAとはかけ離れた見た目だったそうだ。自分はその映像を見ていないが、かなり太っていた上、相当年がいった女性だったとのこと。つまり――AYAの偶像を信じていたファンたちの夢を、大きく壊してしまったのである。  カメラをミスしたのは完全に彼女の失策だ。それは間違いない。  だがしかし、彼女は何か不祥事をしたわけでもなければ、人を貶めるようなことを言ったわけでもない。にも拘らず、ネットには人気アイドルの“醜い素顔”と称して、罵倒が溢れることになったのだ。夢を返せ、ブスはひっこめ、どう落とし前をつける気だの弁償しろだのと。  無論、会社に対しては損害賠償が発生する可能性もあっただろう。しかし、企業は彼女の失敗を不問にし、心を病んだAYAが退所することを許した。AYAも謝罪コメントを出して、罵倒に溢れたSNSアカウントを削除した。話は本来、それで終わりとなったはずだ。  最大の問題は。それが、同じクインテット・エンジェルの私達にも波及したということである。 『他のエンジェルたちもさあ、きもいオバサンがやってんじゃないの?素顔見せて、そうじゃないって証明してよ』  実に馬鹿げた話である。顔を出さないこと、を前提に契約したVチューバ―。なんで、中の人を晒せ、なんて声が出るのだろう。中の人まで若くて美人でなければ許さないなんて言われなければいけないのだろう。
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