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前編
夜中の2時頃。僕はそっと家の外へ出た。
空を見上げると白い満月が輝いている。いなくなった黒猫のルナを探すために外へ出たはずなのに、僕は思わず月に見惚れてしまった。
群青色の星空に輝く白い月は、いつもより大きく見える。じっと見つめていると、吸い込まれてしまいそうだ。
——こんなことをしている場合じゃない、早くルナを連れ戻さないと。
僕は近くにある丘へ向かって歩き出した。そこには、ルナのお気に入りの場所があるからだ。
丘の頂上には、塔の形をしたモニュメントがあり、夜に家を抜け出したルナは、いつもそこから空を見上げている。周りには丘より高い建物はないので、夜空が綺麗に見えるのかも知れない。
5分ほど歩いて丘に着くと、ほんのりと甘い香りが鼻腔をくすぐる。丘には一面にネモフィラの花が咲き、春の夜風に揺れていた。満月が明るく照らしているので、夜でも花びらが淡い青色だと分かる。
僕は丘を登りながら、青い花の絨毯を眺めた。
——綺麗だな……。もしかしたらルナも、ネモフィラが見たかったのかも。
自分でそう考えておきながら、ふっと笑いが込み上げた。昼寝と猫じゃらしが大好きなルナに『綺麗』は分かりそうにない。そもそも猫は、何かを綺麗だと感じたりするのだろうか。
丘の頂上が見えてくると、塔の形のモニュメントの上には、やはり猫の姿があった。
まだ少し距離があるけれど、黒い猫のように見える。猫は背筋をまっすぐに伸ばして、月を見上げていた。
——困ったお嬢さまだな。
僕が頂上へ向かって歩いていると、ルナの尻尾がふわりと動いた。
——あれ……?
僕は思わず立ち止まって、ルナを見つめた。
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