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後編
再びルナが尻尾をふわりと揺らすと、その尻尾は2本ある。最初は見間違いかと思ったが、どう見ても2本だ。
——当たり前だけど、いつもは1本だよな……。それとも、最初から2本だったか……?
頭の中が混乱して、普段のルナの姿が思い出せない。
その時——ルナと視線がぶつかった。僕がいることに気が付いたようだ。ルナは尻尾をだらりと下ろし、僕をじっと見つめている。いつの間にか、尻尾は1本だけになっていた。
——でもさっきは、絶対に2本あったよな……。
ルナは尻尾を下げたまま、身動きひとつしない。怒った時にも同じような行動をするので、もしかしたら不安を感じているのかも知れない、と思った。
夜に家を抜け出したことを怒られると思っているのだろうか。それとも、尻尾が2本あることがバレてしまったのかと心配しているのだろうか——。
僕は笑顔を作って、できる限り優しい声で「ルナ」と名前を呼んだ。僕は初めから怒るつもりはなかったし、少し驚いたけれど、たとえ尻尾が2本あったとしてもルナが大事なことに変わりはない。安心してほしかったのだ。
ルナは耳を動かし尻尾をピン、と立ててモニュメントから飛び降りた。そしてゆっくりと僕の方へ歩いてくる。僕は怖がらせないように、その場に片膝をついて、ルナが来るのを待った。
ルナは僕の足元まで来ると、ちょこんと座り、僕の目を見つめる。僕がどんな反応をするのかを、観察しているようだ。
「帰ろうか」
僕が抱き上げると、またルナは僕の目をじっと見つめる。まだ気にしているのだろうか。
「今日は満月だから、花が綺麗に見えるねぇ」
僕が言うと、ルナは「にゃーん」と鳴いた。
——ん? もしかして、言葉が分かるのかな。そういえば僕が何かを言うと、いつも返事をするよな……。
本当は尻尾のことも訊いてみたいけれど、それを訊くとルナが逃げてしまいそうな気がしたので、僕は何も言わずに歩き出した。尻尾が2本あって、言葉も分かる。ルナは多分、普通の猫ではないのだろう。
——いつか、本当のことが訊けたらいいな。
顎をくすぐると、ルナはごろごろと喉を鳴らした。
風が、さぁっ、と吹き抜けると、青い花の絨毯は波打つように揺れる。
「明日は昼間に花を見にこようか。明るい時の方が、青が綺麗に見えるからね」
僕が言うと、ルナは「にゃーん」と返事をした。満足げな顔をしているので、やはり言葉が分かるのだろう。
そして、ふと気がつくと、ルナの背中で2本の尻尾が揺れていた。おそらく、バレていないと安心したので、隠していた尻尾が出てきてしまったのだろう。
僕は思わず吹き出しそうになったが、必死にそれを飲み込んだ。今笑えば、気付いていることがバレてしまう。
——ルナの秘密を見ちゃって、ごめんね。
僕は笑いをこらえながら、ネモフィラで青く染まった丘を後にした——。
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