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Ⅱ
【くちゃくちゃ】
最後に残ったのは聴覚だった。
痛みはすでに感じない。
【くちゃくちゃ】
きっと身体のどこかがかじられているのだろう。
と、思う。
まさか、本当に狼だったなんて。
薄れゆく意識の中でエマは思った。
狼男。まさか本当にいたなんて。
『いただきます』
大きな口と、その中に見えた大きな喉●●●。
それがエマの見た最後の光景だった。
【くちゃくちゃ】
【くちゃくちゃ】
【くちゃく……】
音が途絶え、エマの意識が奈落の底へと落ちるのに時間はかからなかった。
空には大きな満月が【ぽっかり】といった様子で浮かんでおり、パリの町を淡く、そして黄色に包み込んでいる。
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