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彼がくれるプレゼント
ワタシには大好きな彼がいます。
多分、彼もワタシの事が好きだと思います。
だって彼は、毎日ワタシの所に来てステキなプレゼントをくれるんですもの。
普通、好きでもない娘にプレゼントなんてくれないでしょ?
でもね、心配な事が1つあるんです。それは、彼のプレゼントがワタシにだけじゃないからです。
彼はワタシの他にも女がいるんです。
その女はスラっとして背が高くて、顔は知りませんが多分、美人だと思います。
男はスタイルの良い美しい女が好きだと聞きますから心配です。
これが噂に言う二股ってヤツでしょうか?
彼は太陽が遠くの山々に少しだけ隠れる頃、現れます。
あっ、家の角を曲がり、今日もこちらに歩いて来ました。
隣のノッポな女が邪魔ですけどワタシだって子柄で小さいし可愛さだけは負けません。
彼はワタシとノッポ女の間で止まりました。そして、またプレゼントをくれます。
ワタシは、そのプレゼントを受けて、全身で喜びを表し幸せを感じます。彼のくれるプレゼントはワタシを芯から元気にしてくれるのです。
彼はプレゼントをくれた後、凛々しい姿で去って行きました。
(あー、彼との別れがつらい)
ワタシはシクシク泣きました。これは、もはや愛です。
ワタシはその夜、彼と初めて出会った日に想いを馳せました。
あの時、彼はまだ子供でした。小さな身体で走り寄りワタシにプレゼントをくれたのです。
ワタシの恋は、あの日から始まりました。
その後、長い長い時が2人の恋路を隔てました。
(もう、二度と会えない)そう思い何度泣いたことか……。
そして再びワタシの視界が明るくなり、奇跡はその日に起きました。なんと大人になった彼がワタシの前に現れたのです。
これは、まさしく運命。そう感じたのは2日前の事です。
また太陽が上り朝が訪れます。ワタシは太陽が山の向こう側に少しだけ落ちるのを待ちました。
そろそろ彼が来る頃です。彼の事を考えるだけでワクワクします。
やがて彼の姿が見えました。しかし、ワタシはその瞬間にショックを受けます。
なぜって?いつも男の子と一緒の彼が女の子と歩いてきたからです。
彼のプレゼントを今日のワタシは悲しい気持ちで受けました。ノッポ女の顔は見えないけれど、きっと彼女も同じ気持ちでしょう。
ワタシの気持ちなど知らずに彼は清々しい顔を残して去って行きます。
「何を泣いているの?」
物知りな友人がワタシに声をかけてきます。
ワタシは憎々しい女の子の後ろ姿を眺めながら尋ねました。
「あの女の子は何という名前ですか?」
友人は答えます。
「あれは人間の女の子だよ」
(人間?)初めて聞く名前です。
ワタシは続けて質問してみます。いつも気になっていた事……。
「あの女の子と彼を繋いでいる羨ましいヒモは何?」
「あー、アレはリードだね」
(リード、これも初めて聞く名前)
「では……」
ワタシの探究心は止まりません。
「ワタシの横にいる女は誰ですか?」
「横にあるのは電信柱だね」
(女は、電信柱という名前)
ここでワタシはふと自分にも名前があるのではないかと思いました。聞いてみます。
友人は「君はタンポポだね」と答えました。
どうやらワタシはタンポポと言う名前らしいです。
ワタシはまた尋ねました。彼が片足を上げてワタシにくれるプレゼントの名前を……。
「彼がワタシにくれるプレゼントは何?」
笑って答える友人。
「それはオシッコだね」
(プレゼントの名前はオシッコ。変わった、お名前)
ワタシは最後の質問を投げます。
「オシッコをくれる彼の名前は?」
「あー」
友人は空高く吹いてから舞い戻り、無表情でこう答えました。
【彼は……犬だね】
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