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牢獄へ帰ろう
今日も人工物だらけのジャングルを歩く。
目を覆い隠す前髪の下の瞳は刃を持っていた。街ゆく人だかりの中で殺されないために持ち歩く凶器。この街ではこうするしか生き残る方法は無いのだ。
目立つことなく、穏便に。でも、瞬時に攻撃出来れば、確実に生き残れる。すれ違う群衆も同じような目付きをして歩いていた。俺を物珍しそうに見る気狂いを睨みつけて視線を外させる単純作業。人が溢れるが孤独の街を闊歩した。
黒い死装束を身にまとって歩いていく操り人形は、何も考えることなく大きい箱に囚われに自ら行く。現に自分もその一人なのだが。
何が楽しいかもわからず、人生を払って紙切れを貰う。こいつが無きゃこの世は生きていけない。
食うにも寝るにもこいつがいる。何が楽しくてこんなもののために時間を使ってるのかは、未だに分からないが。
「仕事嫌だなぁ。バックレてぇ」
灰色の煙を漂わせながら1人の黒服が呟いていた。
そんなこと言ったって、こいつも言葉とは逆の行動をとるのだろう。単純明快な答えがそこには転がっていた。
かく言う俺は、なんも考えない生き方が楽なことに気がついている。ただガラクタの様に使われれば生き残れるのだから。
考えたら負けな世界だ。つまらない世界。
『生きている間に頭を使え』
どこかのコメディアンが言い放っていた。その言葉はすぐに世のゴミ箱に放り込まれる。
だってみんな分かっているのだから。それをしてはいけないように世界を構築したのもお前だということも、この世のもの達は分かっている。
メディアと社交ダンスするしかないのだ。それしか、情報は入ってこないのだから。
また一日が終わる。
黒服たちが監獄から解き放たれた。次に向かうのは、心を落ち着かせられる場所という名の、ただ次の日を待つ牢屋だろう。
こうもマゾが多いのは笑えてくる。
さあて、俺も牢屋へ帰ろう。
また明日は今日と同じ時間が流れるだけだが、少しだけ、事件が起こることを楽しみにしている。
代わり映えのない時間を過ごした自分に、新たな風が吹けば、きっとあの使い捨ての弁論者が言った、脳みそは使える。
物語のようにはうまくいかない世界で、今日も息をする。
願っても変わらない。
そう分かっていながらも。
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