雛鳥の翼

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履き慣れない靴を履いているから、足の甲とかかとが擦れる。 下敷きを入れても何度も脱げかける靴。力を込めるために丸めた指先。 普段使わない筋肉を使っているせいでゆっくりとしか歩けない。 飛んでくる舌打ちに肩を縮め、必死に流れについていく。 頭上から人身事故があって電車が遅延しているとアナウンスが降ってくる。ちょうど乗ろうとしていた電車だった。 同じような服を着て、同じ方向に歩いていた人達が途端にばらばらに動き出す。 ただでさえ流れに乗るのは苦手なのに、そうなったらもう着いていけなくて。 カツカツ。カツカツ。苛立ったようにヒールを鳴らす、キツそうな顔立ちをした女の人に睨み付けられた。 更に身体を小さくしながら、邪魔にならないように壁際を歩く。いつも乗ってる線よりも遠くて、足の痛みが酷くなった。 必死に歩いてやっと辿り着いたホームは、人で溢れかえっていた。後ろからどんどん人が来て、強制的に奥へ押し込まれる。 息をつく暇もなく、ホームに滑り込んできた鉄の箱に無理やり詰め込まれた。 酸素が薄い。息が苦しい。でも降りる選択肢なんて存在しなくて、ただただ、苦痛に耐えることしかできない。 ふいに、電車が大きく揺れる。 黒っぽいスーツに覆われた肉とポールの間に挟まっていた私の腕が、変な方向に曲がった。
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