7人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「皆さんが大空へと羽ばたいていくのを──」
長ったらしい校長の話の中で、唯一この言葉だけを覚えている。
『入賞しましたー!! やったー!!』
Xを開いて最初に飛び込んできたのは、執筆仲間の吉報。
『おめでとうございます!! ほんとに凄い!! 私まで嬉しくなっちゃった!!』
溢れ出る喜びをスマホ画面に叩きつけて、送信する。
凄い!本当に凄い!私も頑張らないと。
喜びに突き動かされながら、リュックの中からパソコンを取り出す。起動する時間すら惜しくて、プリントの裏に入れたいシーンを書き殴った。
どうすればもっと面白くなるだろう。
どうすればもっと楽しんで貰えるだろう。
中古のパソコンがカリカリと音を立てる。ペン先がガリガリと紙面を削る。興奮で頭が回り、喜びで指が踊った。
一心不乱に書いて。打って。書いて。打って。
お母さんに夜ご飯に呼ばれるまで、机の上にかじりついていた。
「今日もずっと遊んでたみたいだけど、大学に入ったんだからもっと勉強しなさい」
お母さんのハシが魚に差し込まれる。あっという間にバラバラになった魚を目で追いながら、思い付いた描写をメモに書き込む。それを見たお母さんの片眉が苛立ったように跳ね上がって、慌ててメモを置いた。
「大丈夫大丈夫! 講義ちゃんと受けてるし!」
ため息の後に続く、そう言うことじゃないの分かるでしょう?と訴えるわざとらしい呆れた顔。
「ほんとにちゃんと受けてるってば〜! 今日の講義凄くためになったし、アイディアが湧いて止まらなく、……今のなし!! でもほら、ちゃんと講義聞いてるってことでしょ!?」
ハシを魚に突き刺して抉る。
骨と身が混ざってしまった魚と格闘しながら、頭は次に書くシーンのことでいっぱいだった。
時間が足りない。身体が足りない。
文章力も、構成力も、登場人物の魅力の伝え方も、全然足りなくて。それでも、面白いと言ってくれる人達がいる。
もっと喜んで貰えるように頑張ろう。
最初のコメントを投稿しよう!