雛鳥の翼

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「皆さんが大空へと羽ばたいていくのを──」 長ったらしい校長の話の中で、唯一この言葉だけを覚えている。 『入賞しましたー!! やったー!!』 Xを開いて最初に飛び込んできたのは、執筆仲間の吉報。 『おめでとうございます!! ほんとに凄い!! 私まで嬉しくなっちゃった!!』 溢れ出る喜びをスマホ画面に叩きつけて、送信する。 凄い!本当に凄い!私も頑張らないと。 喜びに突き動かされながら、リュックの中からパソコンを取り出す。起動する時間すら惜しくて、プリントの裏に入れたいシーンを書き殴った。 どうすればもっと面白くなるだろう。 どうすればもっと楽しんで貰えるだろう。 中古のパソコンがカリカリと音を立てる。ペン先がガリガリと紙面を削る。興奮で頭が回り、喜びで指が踊った。 一心不乱に書いて。打って。書いて。打って。 お母さんに夜ご飯に呼ばれるまで、机の上にかじりついていた。 「今日もずっと遊んでたみたいだけど、大学に入ったんだからもっと勉強しなさい」 お母さんのハシが魚に差し込まれる。あっという間にバラバラになった魚を目で追いながら、思い付いた描写をメモに書き込む。それを見たお母さんの片眉が苛立ったように跳ね上がって、慌ててメモを置いた。 「大丈夫大丈夫! 講義ちゃんと受けてるし!」 ため息の後に続く、そう言うことじゃないの分かるでしょう?と訴えるわざとらしい呆れた顔。 「ほんとにちゃんと受けてるってば〜! 今日の講義凄くためになったし、アイディアが湧いて止まらなく、……今のなし!! でもほら、ちゃんと講義聞いてるってことでしょ!?」 ハシを魚に突き刺して抉る。 骨と身が混ざってしまった魚と格闘しながら、頭は次に書くシーンのことでいっぱいだった。 時間が足りない。身体が足りない。 文章力も、構成力も、登場人物の魅力の伝え方も、全然足りなくて。それでも、面白いと言ってくれる人達がいる。 もっと喜んで貰えるように頑張ろう。
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