ウグの里帰り。クズの親孝行。

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『父ちゃん、母ちゃん。私とウグは天国で待ってるから。いつかふたりがこっちに来たら、また四人で仲良く暮らせるよね』 「……そうね。そう出来るように、私達も」 「恵寿もウグも天国で見ているなら、心配かけないように、パパとママは仲良く暮らさないといけないね」  両親との時間が終わり、ウグの霊魂は私のいる雲の上まで帰ってきた。 「四人で仲良く、かぁ」  さっきは必死だったし、私も柄になく感傷的になって、とっさにあんなことを言ってしまったけどさ。  よくよく考えてみれば、私はすっかり、ひとり暮らしの快適さに慣れ尽くしていた。  実家に住んでいた頃は気難しい父と口うるさく注意してくる母からああだこうだ言われるのにうんざりして。ひとり暮らしは最高だぜぇ! と漫喫していた。まぁ、その「口うるさい」を失って自堕落した結果の早逝なんだから笑えない話ではあるが。  今になって三人と一匹の暮らしに戻ったら、私がしんどいような気がしてきた。  だからこそ、現状……雲の上でのウグと自分だけの暮らしはまさに「天国そのもの」だった。ウグは何も言わない。良いことはもちろん、「煩わしいことを何も言わない」。 「ウグ~、ちょっとこっちおいで~」  少し離れたところにいたウグへ呼びかけると、すぐに私のところまで来てくれた。抱っこして、思う存分全身のふわふわを堪能する。  もう死んでしまったから、ウグにも私にも「ご飯」も、「シモの世話」も「病老介護」もいらない。ペットと暮らす上で必須でありネックでもある、「命に対する責任」は、もはやない。ただただ私にとって都合の良い愛玩対象となってしまったのだ。 「……あたし()って、ホント、クズ……なんちゃって」  おわかりいただけただろうか。クズというのは死んだからってなおらないのである。  こんな私を反面教師にしていただいて構わないので、皆様におかれましては生きている間にじゅうぶんな親孝行と自己研さんに励まれて、心を綺麗に磨いてから天国へ辿り着かれますように。雲の上からこのクズが、お祈りしたく存じ上げます。
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