12人が本棚に入れています
本棚に追加
実際、飼い犬としてのウグの生涯は幸せだったはずだ。
世の中には、ウグのように生きさせてもらえなかった犬がたくさんいる。星の数ほどと言えるくらいに。
可愛い盛りだけ愛玩されて、ウグのように病気になったら世話が大変になったからと見放されたり。貰われていった家の環境が良くなかったり。ペットショップで売れ残って、……されたり。保健所送り、多頭飼育崩壊……ウグはそのいずれでもなく、ひとつの家庭で子犬から老いて死ぬまで、全力で愛されたのだから。
急に喋り出したウグに、両親はきょとんとした顔だった。
「あなた、もしかして恵寿ちゃん?」
当たり前のようにそう指摘されて、今度は私が驚く番だった。
『な、何をおっしゃるウサギさん。そんなハズないでしょう』
「ほら、その口癖。恵寿がよく言ってた」
「むか~し見たアニメの影響だったっけ? 懐かしいわぁ」
しまった、またやってしまった。私の痛い悪癖。自分の気に入ったキャラの台詞をすぐ真似てしまい、口癖になるほどに濫用するのだ。
「恵寿は魔法が使えたのか」
「あなたって子は、私達に対していっつも秘密主義だったわよねぇ」
魔法をあてにされたら面倒だから、身内には秘密にしている人も多く、私も同様だった。まぁ、そうすると「名前を呼ばれる機会が多くなる」ので、どんどん魔力が弱まっていくというデメリットがあるのだが。
『私だけの魔法じゃなくて、知り合いの力も借りてるの。だから父ちゃん母ちゃんにウグを会わせてあげられるのは今日、一回限りなんだ』
「こうやって助けてくれる友達が恵寿にもいたんだなぁ。安心したよ」
両親は私の残念な人間性ゆえに友達がいないのを知っていたので、こんな風に言うのである。彼女は私を友達と思っていないだろうが、がっかりさせたくないので黙っておく。それより先に、父母へ言いたいこと、訊きたいことがあった。
『父ちゃん、母ちゃん、ごめん。私、もっと性格の良い娘に生まれてくれば良かったね。おまけにだらしなくて、親より先に死んだ親不孝で』
こんなクズな娘でも、両親は人並みに、私を溺愛してくれていた。私はそれが不思議でならなかったのだ。
性格だけならまだしも、外見だって全然美人じゃないのに。おまけに勉強も嫌いであえての高卒フリーター人生を選び、よくある「子供が有名大学、企業に入ったのよ」みたいな話とも無縁だった。
「他人に誇る娘かというとそうじゃなかったかもしれないね。でも私達、恵寿ちゃんを自慢したくて産んだわけじゃないからいいのよ」
「他人の命や生活を脅かすようなことをするようだったらもちろん別だけど、いくつか欠点があるからって自分の子供を嫌いになったりしない。親ってそういうものなんだよ」
最初のコメントを投稿しよう!