朝を疎む星

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──私の隣でこんこんと眠り続ける青年は夢を見ないらしい。長い睫毛はわずかたりとも動くことは無く、静かな空間に規則的な寝息の音だけが満ちる。呼吸のほかはゆっくりと上下する胸部だけが彼が生きていることを示しており、青年の手に触れた私の指先にほのかなぬくもりを灯していた。 「……」 起きなくてもいい、と、いつかの昔に彼は言った。 起きていても、寝ていても、現実味が薄いのだと。 それなら寝ていたほうがマシだと、彼は言った。 何を思い、何を考え、彼はああ言ったのだろう。 「…‥」 彼は少しだけ身じろぎをすると、触れていた私の指先を握り込んだ。温かい。滑らかな肌に反し奥底の骨格は確かに性別の違いを感じる。爪は短く切り揃えられているので痛くはない、それから、それから。 「……」 ああ、思考回路はまとまらない。私にも眠気が泥のようにまとわりついている。このまま足を取られて沈んでしまいたい、かすかな体温と呼吸の音だけを引き連れて、深い深い眠りへと至りたい。 「……」 そうすれば、笑顔の彼に会えるのだろうか。 夢の中ならば、きっと願えばなんでも叶う。 起きて、笑って、駆け回る彼の姿が見られるはずだ。 「……」 ──そうか。ああ、きっと、きっと。彼にも叶えたい願いがあったのだろう。いつか眠りの中で願いが遂げられることを夢見て、今日も眠り続けるのだろう。 それならば、無理に起こしてしまうのは可哀想だ。 おはようも、おやすみも、彼には要らない。 「また、あした」 伝えるのは、小さな約束だけ。
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