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そしてクラークはアトロの部下でもあった。王国騎士団の副団長を務めていた。だが、団長の座が空いたため、その地位に就く。
つまりクラークは、アトロから爵位と団長の地位と、そして娘を受け継いだのだ。
だからこそ聞こえてくる、周囲からの黒い声。
(クラークは、そんな人ではないのに……)
オリビアは嫌がるクラークを無理矢理社交界に連れ出し、仲睦まじい夫婦の姿を周囲に見せつけようと試みているが、肝心のクラークはむっと頑なに口を結んで、必要最小限の会話しかしない。そして、義務的にオリビアと一曲踊る程度だ。
そんなオリビアを見かねた他の男性が彼女に声をかけようとすれば、クラークは彼女の手を取り、他の場所へと移動する。
だから、余計にオリビアがクラークに虐げられていると、そんな噂が立ってしまうのである。
そしてその噂の主が、オリビアの母親の兄であることを、彼女も知っていた。
伯父は、このディブリ家を狙っているのだ。アトロが亡くなったときに、オリビアの後見人として名乗り出たのも伯父である。
だが彼女は、すでにクラークと結婚した後であったため、それから逃れることができた。
クラークには感謝しかない。
同時に、オリビアには重大な悩みがあった。
(私は、女性としての魅力に欠けているのかしら?)
結婚して二年。彼にとっては望まぬ結婚であったかもしれない。
それでも毎日同じベッドで眠っているのだから、少しくらいムラムラしてくれてもいいだろう。
望まぬ結婚であるからこそ、妻としてこの身を捧げる覚悟はできていたのに――。
クラークはオリビアを求めようとしない。
つまり、結婚して二年も経つが、オリビアはぺっかぺかの処女なのである。
一緒に寝ているはずなのに、ベッドの隅と隅に離れて眠る。
結婚してから半年経った頃、オリビアは寝ぼけた振りをして、ごろごろと寝返りを打ちながら彼にぴったりと寄り添ってみた。
だが彼は、転がってきたオリビアの肩まで毛布をかけると、ベッドから下りてどこかへと行ってしまった。数分後に戻ってきたようだが、彼女がいる方とは反対の方向、つまりいつもオリビアが眠っている端の方で眠ろうとしていた。
これはなかなか手強い相手である。
オリビアもそう思っている。
また、彼女がよく参加するお茶会では、たびたび閨事も話題にあがる。女性しか集まらないというその状況が、集まった彼女たちの口を軽くするようだ。
閨事の話題を振られるたびに、オリビアは「さぁ」「知りませんでしたわ」「素敵ですわね」「せっかくですが」「そうなのですか」と言って誤魔化していた。
彼女の本当の心の内は、信頼のおける友人にだけ漏らす日々。
さらに事態を深刻にしていたのは、半年前からクラークが屋敷に戻ってきていないことである。
けして彼が家出をしたわけではない。騎士団の団長という責任ある立場によって、遠征という名の長期不在になってしまっただけだ。
半年前に北の公爵領で大規模な水害が起こったため、そこに派遣されたのである。
となれば、相手がいなければ夜の営みなどできるわけがない。逆にできたら問題だ。
だから結婚して二年、二人は白い結婚と呼ばれる夫婦関係であった。もちろん周囲は、一部を除いてそれを知らない。
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