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◆3.洞窟
これには、さすがの左門も困惑いたしました。毒があるだけでなく、刃物も通らず、また海からやって来るのでは、どこから手をつけたらよいのかわかりません。しかし、ふと左門は思ったのでございます。怪物の手下にされている濡れ女たちは、どうしているのだろうと。
左門は「この村でさらわれた女は、今、何人か」と、村長に尋ねました。
「三人でございます」
と、村長は答えました。
「そのうちの一人は、昨日、死んだ。あと、二人、どこかで怪物に囲われているに違いない。その人たちだけでも、助け出せないだろうか。人の身であれば、海中では生きられまい。海岸近くの洞窟にでも隠されているのではないか?」と、左門は言いました。
吾平は、自分は長年漁師をやっていて、思い当たる洞窟をいくつか知っていると言ったので、皆で一緒に、洞窟を探そうと、左門は呼びかけました。しかし、村人のほとんどは、怖気づいてしまい、力を貸してくれません。二人の男だけが、名乗りを上げました。
その二人は、さらわれた女の夫たちで、名を加助と藤吉といいました。左門は刀、吾平と二人の村人は、銛を持って、洞窟を見て回りました。
ついに、ある洞窟で、ぼろぼろの服の女が、化け物の子どもをあやしながら、過ごしているのを見つけたのでございます。そばには、犠牲者の肉片や骨と思われるものも、転がっております。左門は素早く刀を抜いて、他の者も銛を構えました。
「お計!」
と、加助が呼び掛けましたが、女は、加助のことなど正気を失い忘れた様子で、
夫は どこかへ行ったのか
魚を食う子は 大きくなりて
人人を食う子は、歩いて泳ぎ
牛に乗る子は 永遠につく
と奇妙な子守り歌を歌い、化け物の子どもに笑いかけるのです。
加助が女房に近づこうとしますと、また、小さな化け物が飛び掛かってきました。左門は加助を突き飛ばし、小さな化け物を素早く刀で切り伏せ、女は、また血を吐いて死んでしまいました。
左門は言いました。
「どうやら、化け物の子どもを殺すと、母親にされた女も死んでしまうらしい。なんと、惨いことだ!」
加助は、歯ぎしりして悔しがり涙を流しました。
また、四人は、いくつかの洞窟を調べましたが、ある洞窟に、今度は、女だけでなく、あの巨大な怪物もいたのでございます。
加助は、左門が止めるのも間に合わず、咆哮し、怪物にかかっていきました。が、彼の銛は、化け物の硬い体に跳ね返され、逆に、怪物の鋭い足が、深々と加助の胸を刺し貫いてしまいました。しかし、加助は、息絶える前に、銛を短く持ちかえて、「お計!」と叫び、力の限り銛を怪物の目に食い込ませ、怪物は、大声を上げ、加助の体を抱えたまま動き出し、海の中に消えていきました。
藤吉は涙を流しながら、洞窟に残っていた怪物の子どもを銛で突き殺し、彼の正気を失った妻も血を吐いて死んだのでございます。
怪物の子どもたちは退治できたのですが、怪物の親玉をどうしたらよいのか。人々は、頭を抱えました。そこで、左門がまた、ふと次のようなことを言ったのです。
「そもそも、あの怪物は、昔から、この地域におったのか?」と。
人々が、また、ざわざわと、顔を見合わせて、何か事情がありそうな様子です。何かを知っているのに、話そうとしない村人たちに、左門は腹を立てました。
「これだけ犠牲者が出ているのに、はっきりと言えない理由とはなんだ!」
村長が、うつむきながら答えました。
「お恥ずかしい事をお話しなければなりません」と。
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