◆4.漂着船

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◆4.漂着船

 村長が話したのは、次のようなことでした。  数か月前のある日、大きな廻船(かいせん)が、霧浜に流れついているのが、発見されました。調べてみても、人はいません。船には、銛や刀、弓などが転がっていて、血の跡がありました。どういうわけか、帆布(ほぬの)も無事で、船が損傷した形跡が無く難破したにしては不自然な様子でした。  海賊にでも襲われたのかと思われましたが、たくさんの積み荷は残っていました。大量の米俵があり、どこかへ送られる途中だったようでした。そこで、村人たちは、仔細(しさい)もわからぬのに、悪い心を起こしてしまったのです。流れ着いた船のことを、お(かみ)に届け出ることもせず、積み荷を、皆で山分けし、流れ着いた船は壊し沈めてしまったのです。  その時から、この怪物が、この海辺に出るようになりました。恐らく船の乗り手たちを殺した怪物が、船と共にこの村に流れ着いた。そして、船から怪物が降りてきて、この付近に居座るようになったに相違ありません。  しかし、漂着船の積み荷を横領してしまっているので、領主に怪物の事を報告し、怪物退治の支援を願い出る事ができないのだと。   村長が、このような告白をすると、別の村人が、今度は次のような告白をしはじめたのでございます。  船が漂着する数日前に、浜の別の場所に流れ着いていた人を助けたのだそうでございます。その男を家に運んで介抱しましたが、時間が経つにつれて弱っていくばかりで、もう長くない様子でした。  その男は「死ぬ前に伝えなくてはならないことがある」と言ったのだそうです。  その男は、廻船の乗り手で、ある日、その船は、海上で霧に遭ったのだと言いました。この時期に霧など、不思議なことだと思いましたが、操船していると、霧の中で別の大きな船に出会いました。今まで見た事が無い造りで、どうやら異国の船のようでした。  その船は帆も舳先(へさき)ボロボロで、いくら呼んでも誰も出てきません。さては、難破船かと思い二人の船員が小舟で近づいてみると、船から二匹の怪物が現れて、小舟の船員たちをたやすく殺し、泳いできて大船に登ってきたのです。  海の男たちは、怪物たちと果敢に戦いました。恐ろしい事に銛で突いても、跳ね返され、怪物たちには通じませんでした。しかし、一匹の怪物は、船上へと登り切る前に、船員たちによって銛で目を潰され、怪物は大声を上げ海に沈んでいきました。しかし、もう一匹の怪物は船上にまで登ってきてしまいました。運ばれていたのは、年貢米だったそうで、海賊に奪われぬため、手練れの侍たちも乗っていたそうです。  もちろん侍たちも応戦しました。しかし、やはり怪物の体は、いくら刀で斬りつけ、弓矢で射ようと、攻撃を跳ね返してしまいます。そうこうするうちに、爪にかけられた者たちは毒で身動きができなくなり、次々と殺されていきました。  こうなると、どうにもならず、やむなく男は海に飛び込んで逃げ、浜に漂着したそうでございます。 「恐ろしい怪物が乗った船が流れ着くかもしれない。くれぐれも気をつけるよう付近の者たちに知らせてくれ」  そう言い残すと、男は息を引き取りました。しかし、あまりに恐ろしい話で信じたくなかったから、黙っていたと申します。  男を看取った村人に、村長は「なぜ、そのような大事(だいじ)を黙っていた!」と、怒りだしました。  村長と村人が言い合いを始めた時、左門は、それを制してから言い放ったのでございます。 「今の話を聞いていても、この化け物の急所は目しかないようだ。人でも獣でも、目の穴から深く何かが刺されば脳に達し、命を失う。加助が、一矢報い、化け物の片目を潰してくれた。 容易なことではないだろうが、あの化け物の残り一つの目を突けば、あるいは退治できるかもしれない」
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