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◆6.左門
村人たちに、化け物を退治できるまで、浜辺に近寄らず、漁にも絶対に出ないで欲しいと伝えました。
左門は、流れ着いた船にあった弓矢を村人から譲り受け、薪を背負って天狗台に登り、篝火を焚いて夜通し待ち受けましたが、化け物は現れません。
それで、昼は村で休み、夕刻から夜が明けるまでは、天狗台で怪物を待つことにいたしました。
三日経ちましたが、怪物はいっこうに現れません。
そこへ、あの、お陽が口をはさんだのでございます。
「左門さまだけでは、事を怪しんで化け物は来ないのかもしれません。あたしも、左門さまと一緒に天狗台に登らせてください。怪物は、囲った女と子どもたちを失い、また子どもを産ませる女を是が非でも捕まえたいはずです。私が行けば、あるいは、おびき寄せることができるかもしれません」
左門が言った。
「わしが、しくじれば、そなたは化け物の奴婢にされ、子どもを生まされるのだぞ! 自分の言っていることがわかっておるのか?」
「あたしは、どうしても、お菜の仇を討ちたい! 万が一、左門さまが失敗しても、あたしに悔いはありません。もし、怪物に捕まりそうになったら、自害いたします!」と、お陽は申しました。
左門は口を酸っぱくして、何度もよせと申しますのに、お陽は頑固に言うことを聞かず、結局、左門は弓を持ち、お陽と一緒に天狗台で怪物を待つことになりました。
化け物が来ない間、お陽と左門は天狗台の上で長い時間を過ごすことになり、お互いの身の上を話すことも多くなりました。
お陽は、こんなことを話しました。化け物に殺されたお菜は、幼い頃に亡くなった妹と歳が同じで、本当に仲良くしていたこと。
お互いに母親が幼い頃に、亡くなったので、女同士、助け合って成長していったこと。
それが……化け物にさらわれ、正気を失わされた挙句、子どもまで生まされ、他の人を殺める手伝いをさせられていたなど、あまりにも酷過ぎる。あの鬼畜を絶対に、許せないと。
お陽は、なぜ左門は旅をしているのかと尋ねました所、左門は次のように答えました。
彼は、若い頃から武勇の誉れ高く、特に弓術に長けていて、さる大名に仕えていた。
しかし、ある合戦の折に、手ごわい敵将と組み合っていて危うい戦友がいた。その戦友は親友であり、是が非でも助けたかった。しかし駆け寄ろうにも、あちこちで乱戦が起こっている上、距離があり、容易に近づけない。彼は、自分の弓術に自信があったので、戦友を助けようとして敵将を狙って矢を射掛けた。しかし、誤って戦友の方に矢が当たり、敵将は親友を討ち取って、その首を挙げてしまった。砂を噛む思いで、二射目、三射目を放ち、敵将を討ち取った。
主君は手厚い恩賞を与えようとしたが、左門は辞退して、主君のもとを去り旅をしていた。
その旅の途中にこのようなことになり、自分の命が少しでも人々に役に立つならばと思った、と。
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