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「行ってらっしゃいませ」
玄関までお見送りして、靴べらを受け取り、彼が出ていってからしばらく経ってから鍵を閉める。以前、彼が出てすぐに鍵をかけると、忘れ物をしたときに、すぐ取りに行けないじゃないかと叱られたことがある。なんでそんなことに気が回らないんだ、と。
ああ。……なんだろう……この、虚しさは。
自分が生きているのに生きていないような、人形にでもなったようなこの感覚。
すこしでも散らかっていると彼はまた苛々する。食器類がそのままだと怒られる。わたしはエプロンの紐を結び直すと、急いで台所へと向かった。長い長い一日はまだ始まったばかりである。
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