☆01. 恋の始まり

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 * * * 「行ってらっしゃいませ」  玄関までお見送りして、靴べらを受け取り、彼が出ていってからしばらく経ってから鍵を閉める。以前、彼が出てすぐに鍵をかけると、忘れ物をしたときに、すぐ取りに行けないじゃないかと叱られたことがある。なんでそんなことに気が回らないんだ、と。  ああ。……なんだろう……この、虚しさは。  自分が生きているのに生きていないような、人形にでもなったようなこの感覚。  すこしでも散らかっていると彼はまた苛々する。食器類がそのままだと怒られる。わたしはエプロンの紐を結び直すと、急いで台所へと向かった。長い長い一日はまだ始まったばかりである。  * * *
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