☆01. 恋の始まり

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 下着にカビが生えていたのでゴミ箱に捨てておいたのだが。どういう意図か知らねど、ずっと、何日間も、洗面桶にそのカビの生えたインナーを漬け込んでいる。  こんなに簡単に物を捨てるお前は駄目だとでも言いたげに。  あの洗面桶にわたしが触れることはない。もし、また、捨てでもしたら……想像するだけで恐ろしい。  夫はとにかく物を捨てないひとで。サッカーや野球観戦でグッズを買うのはいいが、彼用のタンスがもうパンパンだ。見かねてこっそり捨てようものなら激怒する。  入り切らないくらいに服を買って。……そんなの、処分しない限り、スペースには限りがあるのだから、古いものは処分するほかないのに。  もし、そんな正論でもかまそうものなら……、  ――おまえみたいなカス女を、養って貰えるだけありがたいと思え。  そうして、米しか食わせないという罰を与える。無精者の夫だが、そういうときだけ妙に冴えていて、お惣菜でも買って帰ろうものならすぐ見つかる。そもそもあのひとはお惣菜というものが大嫌いなのだ。
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