☆01. 恋の始まり

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 一日中、働きもしないで、だらだらしてるくせに、惣菜買って帰るなんて何様のつもりだ。あれは、飯を作る暇のない、忙しい人間が買うものなんだぞ? 余裕のない人間がな。  最初の頃に何度かお惣菜をこっそりとお夕飯として出してみたのだが、すぐにバレた。……なんでこんなものを食わせる? 誰が稼いだ金で飯が食っていけると思っているんだこの罰当たりが。  確かに、わたしは、生きていく術を持たない。……が、夫は結婚するときに言ったのだ。  家庭のことに集中して欲しい。おれの母親は専業主婦だから、もし子どもが生まれるとしたらなるだけ、……寂しい思いはさせたくない、と。  だから、仕事を辞めて家庭に入った。いまどき結婚退職なんて? と周囲には驚かれてしまったが。彼の意向だから仕方あるまい。  あたたかい家庭を築きたい、と彼は言った。笑顔のある家庭を築きたいとも。  だが、それが、こんな犠牲の下に成り立っていると知っていたら、あのときのわたしはこの道を選んだだろうか?  * * *  彼の好きなあごだしを切らしたので、珍しく、電車に乗って数駅の、栄えている駅周辺を歩いた。
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