第3跳 紙飛行機と初フライト

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 市民大会はゴールデンウィーク、5月の長休みの初日だ。  太陽に照らされた緑の葉が燃えている。  夏が始まることを告げるような濃い風だ。天候晴れ、湿度は昨日の雨で多め、追い風良好だった。  朝は競技場の赤いタータンから湯気が立ち昇っていたが、すっかり昼には乾いてしまった。  私はというと、リレーメンバーから落ちたグレるナツミと一緒にスタンドから競技を観戦していた。  ここからすぐ真下に見えるフィールド、砂場があった。男子走り幅跳び決勝だ。  ホンマさんは危なげなく決勝に進んでいた。 「ナツミ、いつまで拗ねているの。ほら、ホンマさんの番だよ!」  赤いメガホンでナツミの耳に話しかける。彼女はビクッと驚いた。 「ちょっと何すんのよ!」 「笑いなさい。一度跳べなかったからって、次のチャンスがない訳でないでしょ。この空だって跳んでいけるんだから!」 「アヤカ、あんたはホンマさんに毒されたわね……この次は絶対負けないんだから……」  私のお節介が通じたようだ。  リレーメンバー選考の100M走、負けたのを思い出して歯ぎしりするナツミは、渋々メガホンを持った。  この気の強さはプラスである。この激しい情熱が、陸上選手の性質なんだろう。彼女も陸上の申し子だった。  走路の上で軽く膝を曲げて跳ねた後、ホンマさんは砂場の審判を見た。  スタンバイ。  白旗が切られる。それを見て、片手を青空へ上げた。 「いきまーす!」 「はぁい!」  四方八方から青葉東中学生が掛け声をあげる。仲間たちの手拍子が徐々に加速する。  それに伴い、ホンマさんの助走スピードがあがる。 「跳べえぇぇッ!」  踏み切りはジャストで完璧だった。私たちもメガホンで絶叫する。  あの日見た宙を跳ぶ姿、綺麗な放物線と同じだ。ナイスフライト。着地で砂が弾け飛ぶ。ホンマさんは横に身体を倒した。  ゼッケン番号178、青葉東中、ホンマくん。3回目、成功○。記録6M30。  私の周りの空気が変わった。そんな感じがした。  ナツミが喜びのあまり抱き付いてきた。  ビックフライトだ。暫定1位。  ホンマさんは観客席の私たちに気付いて、右手で指をさした。そしてニッと笑う。  そして青葉東中のテントの方を見て、両手を振ると、頭を下げて一礼した。部員のみんなの手を叩くのに合わせる。私も控えめに拍手を送った。  彼は有言実行のすごい職人だ。私の跳べない不安を一瞬にして吹っ飛ばした。
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